まぎらわしい語の識別
ここでは「らむ」の識別方法を説明します。
「らむ」と書かれていても、すべてが現在推量の助動詞「らむ」とは限りません。
まず、実際の古典作品にある次の三つの例を使って考えてみましょう。
① あたら夜の月と花とを同じくは、心知れらむ人に見せばや。
――『後撰和歌集』春下・源信明
② 鸚鵡、いとあはれなり。人のいふらむことをまねぶらむよ。
――清少納言『枕草子』「鳥は」
③ 心あてに折らばや折らむ 初霜の置きまどはせる白菊の花
――『古今和歌集』秋下・277・凡河内躬恒
「らむ」の識別は、まず接続、つまり「らむ」の直前がどんな形になっているかを見るとできます。
大きく三つに分けて考えます。
①「エ段+らむ」の場合
「らむ」=完了・存続の助動詞「り」の未然形「ら」+推量の助動詞「む」
助動詞「り」はサ変未然形・四段已然形接続です。
四段活用動詞の已然形はエ段になるので、その直後に「らむ」がある場合は、まず「り」+「む」を考えます。
助動詞「む」は未然形接続なので、助動詞「り」の未然形「ら」につくことができます。
あたら夜の月と花とを同じくは、心知れらむ人に見せばや。
――『後撰和歌集』春下・源信明
【現代語訳】このすばらしい夜の月と花を、同じ見せるのなら、風情を理解しているような人に見せたいものだ。
「知れ」はラ行四段活用動詞「知る」の已然形です。
知れ+ら+む
「ら」…存続の助動詞「り」の未然形
「む」…婉曲の助動詞「む」の連体形
したがって、「心知れらむ人」は「心を知っているような人」という意味になります。
ポイント
「知れらむ」のように、四段活用の已然形(エ段)の後に「らむ」が続いている場合、助動詞「らむ」ではなく、「り」の未然形「ら」+「む」と考える。
②「ウ段+らむ」の場合
「らむ」=現在推量の助動詞「らむ」
助動詞「らむ」は終止形接続です。
四段活用などの終止形はウ段で終わるため、基本的にウ段+らむなら現在推量の助動詞「らむ」を考えます。
ただし、ラ変型には連体形接続です。
鸚鵡、いとあはれなり。人のいふらむことをまねぶらむよ。
――清少納言『枕草子』「鳥は」
【現代語訳】鸚鵡はたいそう興味深い。人が言っているようなことをまねるとかいうことだよ。
「いふ」「まねぶ」はどちらも四段活用動詞の終止形なので、この二つの「らむ」はともに助動詞「らむ」です。
ただし、意味は同じではありません。
最初の「いふらむこと」……現在の婉曲「人が言っているようなこと」
二つ目の「まねぶらむよ」……現在の伝聞「まねるとかいうことだよ」
助動詞「らむ」の意味|現在推量・原因推量・伝聞・婉曲
「ウ段+らむ」などから助動詞「らむ」だと判断できたら、次にどの意味なのかを考えます。
① 現在推量……今ごろ~ているだろう
② 現在の原因推量……どうして~ているのだろう/~からなのだろう
③ 現在の伝聞……~とかいう/~そうだ
④ 現在の婉曲……~ような
① 現在推量「今ごろ~ているだろう」
現在推量は、現在起こっていることのうち、話し手が直接見ていないことを想像するときに使います。
風吹けば沖つ白波たつた山 夜半にや君がひとり越ゆらむ
――『伊勢物語』「筒井筒」/『古今和歌集』
【現代語訳】風が吹くと沖の白波が立つ、その「立つ」という名を持つ竜田山を、夜中にあなたは一人で越えているのだろうか。
女は、男が今まさに竜田山を越えている場面を見ているわけではありません。
目の前には見えていない現在の男の行動を想像しているので、現在推量です。
現在推量=「今、何をしているのだろう」「今ごろ~ているだろう」
現在の出来事そのものが直接見えていない。
② 現在の原因推量「どうして~ているのだろう」
現在の原因推量は、今起こっている事実はわかっているが、その原因・理由がわからない場合に使います。
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
――『古今和歌集』春下・84・紀友則
【現代語訳】日の光がこんなにものどかな春の日に、どうして桜の花は落ち着いた心もなく散っているのだろう。
この歌では、桜が散っているという事実は目の前にあります。
わからないのは、「こんなにのどかな春の日なのに、なぜ花が散っているのか」という理由です。
したがって、この「らむ」は現在の原因推量です。
現在推量と現在の原因推量の違い
現在推量……何が起きているのかを推量する。
現在の原因推量……何が起きているかはわかっており、なぜ起きているのかを推量する。
また、「など」「いかで」「なに」「や」「か」など、原因や理由を問う表現が近くにある場合は、現在の原因推量を疑いましょう。
③ 現在の伝聞「~とかいう・~そうだ」
現在の伝聞は、人から聞いた現在の事柄を述べる用法です。
鸚鵡、いとあはれなり。人のいふらむことをまねぶらむよ。
――清少納言『枕草子』「鳥は」
【現代語訳】鸚鵡はたいそう興味深い。人が言っているようなことをまねるとかいうことだよ。
後半の「まねぶらむよ」の「らむ」は、鸚鵡について伝え聞いた内容を述べているため、現在の伝聞です。
「まねぶらむことよ」のように、後ろに「こと」などの体言が省略されていると考えることもできます。
④ 現在の婉曲「~ような」
現在の婉曲は、断定を避けて「~ような」と遠回しに表現する用法です。
「らむ+体言」の形で、後ろの名詞を修飾しているときによく現れます。
人のいふらむことをまねぶらむよ。
――清少納言『枕草子』「鳥は」
【現代語訳】人が言っているようなことをまねるとかいうことだよ。
最初の「いふらむ」は、後ろの体言「こと」を修飾しています。
「人が言っているようなこと」と訳せるので、現在の婉曲です。
『枕草子』の一文は特に重要
人のいふらむこと → 婉曲
まねぶらむよ → 伝聞
同じ一文の中でも、「らむ」の意味が変わります。
四つの意味を比較
| 意味 | 考え方 | 基本の訳 | 実例 |
|---|---|---|---|
| 現在推量 | 直接見えていない現在の事柄を推量 | 今ごろ~ているだろう | 「君がひとり越ゆらむ」『伊勢物語』 |
| 現在の原因推量 | 目の前の事実の原因・理由を推量 | どうして~ているのだろう | 「花の散るらむ」『古今和歌集』 |
| 現在の伝聞 | 人から聞いた現在の事柄 | ~とかいう・~そうだ | 「まねぶらむよ」『枕草子』 |
| 現在の婉曲 | 断定を避け、遠回しに表現 | ~ような | 「人のいふらむこと」『枕草子』 |
③ 他の語の一部+「む」
最後は、見た目が「らむ」になっていても、助動詞「らむ」ではないパターンです。
前の語の未然形が「ら」で終わり、その後に助動詞「む」がつくことがあります。
心あてに折らばや折らむ 初霜の置きまどはせる白菊の花
――『古今和歌集』秋下・277・凡河内躬恒
【現代語訳】あて推量に、もし折るのならば折ってみようか。初霜が一面に置いて、どれが白菊なのかわからなくしている白菊の花を。
この「折らむ」は、
折ら+む
と分けます。
「折ら」…ラ行四段活用動詞「折る」の未然形
「む」…推量の助動詞
したがって、この「らむ」は現在推量の助動詞「らむ」ではありません。
「らむ」の識別まとめ
① エ段+らむ
四段已然形+完了・存続「り」の未然形「ら」+「む」を考える。
② ウ段+らむ
現在推量の助動詞「らむ」を考える。その後、文脈から現在推量・原因推量・伝聞・婉曲を判断する。
③ 「ら」が前の語の一部+む
「折ら+む」のように、前の語の未然形+助動詞「む」。助動詞「らむ」ではない。
予想問題
問1 「あたら夜の月と花とを同じくは、心知れらむ人に見せばや」の「らむ」を文法的に説明せよ。
問2 助動詞「らむ」の接続を答えよ。
問3 「風吹けば沖つ白波たつた山 夜半にや君がひとり越ゆらむ」の「らむ」の意味を答えよ。
問4 「ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ」の「らむ」の意味を答え、その理由を説明せよ。
問5 現在推量と現在の原因推量の違いを説明せよ。
問6 『枕草子』「人のいふらむことをまねぶらむよ」の二つの「らむ」の意味をそれぞれ答えよ。
問7 現在の婉曲「らむ」はどのような形で現れやすいか。
問8 「心あてに折らばや折らむ」の「らむ」を文法的に説明せよ。
例文の出典
- 『後撰和歌集』春下・源信明「あたら夜の月と花とを同じくは…」
- 清少納言『枕草子』「鳥は」
- 『伊勢物語』第二十三段「筒井筒」
- 『古今和歌集』春下・84・紀友則
- 『古今和歌集』秋下・277・凡河内躬恒