『史記』廉頗と藺相如「刎頸の交わり」①|書き下し文・現代語訳・解説・テスト予想問題

目次
  1. 原文・書き下し文・現代語訳
  2. 舎人たちは藺相如のもとを去ろうとする
  3. 『刎頸の交わり』①テスト予想問題

司馬遷『史記』「廉頗と藺相如」から、「刎頸の交わり」前半の原文・書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・テスト対策を解説します。

この場面では、藺相如が自分より高い地位についたことに怒った廉頗と、その廉頗との争いを徹底して避ける藺相如の姿が描かれます。

一見すると藺相如は廉頗を恐れて逃げているように見えます。しかし、この行動には後半で明らかになる重要な理由があります。

前半の流れ

①藺相如が功績によって廉頗より高い地位につく
↓
②廉頗が激怒し「相如を辱めてやる」と宣言
↓
③藺相如は廉頗との対立を避け続ける
↓
④舎人たちは「廉頗を恐れて逃げている」と考える
↓
⑤舎人たちは相如に失望し、去りたいと申し出る

原文・書き下し文・現代語訳

既罷帰国。

既(すで)に罷(や)めて国に帰(かへ)る。

会談を終えて、趙の国へ帰った。

・罷…ここでは、会談を終える。

以相如功大、拝為上卿。位在廉頗之右。

相如(しやうじよ)の功の大なるを以て、拝(はい)して上卿(じやうけい)と為す。位は廉頗(れんぱ)の右に在り。

藺相如の功績が大きかったため、趙王は相如を上卿に任命した。その地位は廉頗よりも上であった。

・拝…官職に任命する。

・上卿…上級の大臣。

「位在廉頗之右」の「右」

ここでの「右」=上位です。

つまり、

藺相如 > 廉頗

という地位関係になったことを表します。

廉頗曰、「我為趙将、有攻城野戦之大功。

廉頗曰(い)はく、「我趙(てう)の将(しやう)と為り、攻城野戦(こうじやうやせん)の大功有り。

廉頗は言った。「私は趙の将軍となり、城を攻める戦いや野外での戦いで、大きな功績を立ててきた。

・攻城野戦…城を攻める戦いと、野外で行う戦い。

而藺相如徒以口舌為労、而位居我上。

而(しか)るに藺相如は徒(た)だ口舌(こうぜつ)を以て労(らう)を為し、而も位は我が上に居り。

ところが藺相如は、ただ弁舌によって手柄を立てただけなのに、その地位は私よりも上にある。

・口舌…弁舌。

・労…ここでは、手柄・功績。

徒~「ただ~」

限定を表す句法。

意味:ただ~だけ。

「徒以口舌為労」=ただ弁舌によって手柄を立てただけで。

且相如素賤人。吾羞、不忍為之下。」

且(か)つ相如は素(もと)賤人(せんじん)なり。吾羞(は)ぢて、之が下と為るに忍(しの)びず。」と。

そのうえ相如は、もともと身分の低い人物である。私は恥ずかしくて、あの男より下の地位にいることなど我慢できない。」と。

・素…もともと。

・賤人…身分の低い人物。

・之…藺相如。

・不忍~…~することに耐えられない、我慢できない。

廉頗はなぜ藺相如に怒ったのか

①自分は戦場で大きな武功を立てたのに、相如は弁舌だけで功績を立てたと考えたから。

②相如はもともと身分の低い人物なのに、自分より高い地位についたから。

宣言曰、「我見相如、必辱之。」

宣言(せんげん)して曰(い)はく、「我相如を見ば、必ず之を辱(はづかし)めん。」と。

そして廉頗は、「相如に会ったら、必ずあの男を辱めてやる。」と言いふらした。

・宣言…ここでは、人々に言いふらす。

・之…藺相如。

相如聞、不肯与会。

相如聞き、与(とも)に会(くわい)することを肯(がへん)ぜず。

藺相如はその話を聞き、廉頗と顔を合わせることを承知しなかった。

不肯~「~を肯ぜず」

意味:~することを承知しない、~をよしとしない。

相如毎朝時、常称病、不欲与廉頗争列。

相如朝(てう)する時毎(ごと)に、常に病(やまひ)と称して、廉頗と列を争(あらそ)ふことを欲せず。

藺相如は朝廷へ出仕する時になるたびに、いつも病気だと言って、廉頗と席次の上下を争おうとはしなかった。

・朝…ここでは、朝廷に出仕する。

・争列…朝廷での席次・序列を争う。

なぜ「争列」することになる?

朝廷では官位に応じて並ぶためです。

藺相如は廉頗より上の位にいたため、二人が同時に参内すれば、どちらが上の位置に並ぶかが目に見える形になります。

已而相如出、望見廉頗。相如引車避匿。

已(すで)にして相如出(い)でて、廉頗を望見(ばうけん)す。相如車を引(ひ)きて避け匿(かく)る。

しばらくして藺相如が外出した時、遠くに廉頗の姿を見かけた。すると相如は車の向きを変え、廉頗を避けて隠れた。

・已而…しばらくして、そのうち。

・望見…遠くから見かける。

「相如引車避匿」

周囲の人から見れば、藺相如が「廉頗を恐れて逃げ回っている」ように見えます。

舎人たちは藺相如のもとを去ろうとする

於是舎人相与諫曰、「臣所以去親戚而事君者、徒慕君之高義也。

是(ここ)に於(お)いて、舎人(しやじん)相(あひ)与(とも)に諫(いさ)めて曰(い)はく、「臣の親戚(しんせき)を去りて君に事(つか)ふる所以(ゆゑん)の者は、徒(た)だ君の高義(かうぎ)を慕(した)へばなり。

そこで藺相如の舎人たちは、そろって相如を諫めて言った。「私たちが親族のもとを離れ、あなたに仕えている理由は、ただあなたの立派な徳義を慕っているからです。

・舎人…身近に仕える家臣・従者。

・諫…目下の者が目上の者に直言し、その過ちを改めさせようとすること。

・事…「つかふ」。仕える。

所以「ゆゑん」

「所以」には、理由・手段・方法などの意味がある。

ここでは「理由」です。

今君与廉頗同列。廉君宣悪言、而君畏匿之、恐懼殊甚。

今君廉頗と列を同じくす。廉君悪言を宣(の)ぶるに、君畏(おそ)れて之に匿(かく)れ、恐懼(きようく)すること殊(こと)に甚(はなは)だし。

今ではあなたは廉頗と同じほど高い地位にいらっしゃいます。廉頗があなたの悪口を言いふらしているのに、あなたは彼を恐れて逃げ隠れしています。その恐れ方はあまりにもひどいものです。

・宣…ここでは「言いふらす」。

・恐懼…恐れかしこまる。

・殊…「ことに」。特に、非常に。

且庸人尚羞之、況於将相乎。

且(か)つ庸人(ようじん)すら尚(な)ほ之を羞(は)づ。況(いは)んや将相(しやうしやう)に於(お)いてをや。

平凡な人でさえ、このように人を恐れて逃げ隠れすることを恥ずかしく思います。まして将軍や大臣ほどの人物なら、なおさらではありませんか。

A尚B、況於C乎

抑揚の句法。

書き下し:Aすら尚ほB、況んやCに於いてをや。

意味:AでさえBなのだから、ましてCならなおさらBである。

臣等不肖、請辞去。」

臣等不肖(ふせう)なり。請(こ)ふ辞去(じきよ)せん。」と。

私たちのような愚かな者には、あなたのお考えを理解できません。どうかお暇をいただき、あなたのもとを去らせてください。」と。

・不肖…愚か者

請ふ~せん

意味:どうか~させてください。

舎人たちは、藺相如の「高義」=立派な徳義を慕って仕えていました。

ところが、藺相如は廉頗から悪口を言われても反撃せず、顔を合わせないように逃げ続けています。

そのため舎人たちは、

「立派な人物だと思って仕えてきたのに、実際には廉頗を恐れて逃げ回っているではないか。」

と失望し、相如のもとを去ろうとしました。

『刎頸の交わり』①テスト予想問題

問1 「位在廉頗之右」とは、藺相如がどうなったことを表しているか。
答 藺相如が廉頗よりも高い地位についたこと。
問2 「右」と同じ意味を表す漢字一字を本文から抜き出せ。
答 上
問3 「徒以口舌為労」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:徒だ口舌を以て労を為し。
現代語訳:ただ弁舌によって手柄を立てただけで。
問4 廉頗は、自分の功績と藺相如の功績をどのように考えていたか。本文に即して説明せよ。
答 自分は城攻めや野戦で実際に大きな武功を立てたのに対し、藺相如は弁舌だけによって手柄を立てたにすぎないと考えていた。
問5 廉頗が藺相如に不満を持った理由を二つ答えよ。
答 ①自分は戦場で大きな武功を立てたのに、藺相如は弁舌だけで功績を立てたと考えたから。
②藺相如はもともと身分の低い人物なのに、自分より高い地位についたから。
問6 「吾羞、不忍為之下」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:吾羞ぢて、之が下と為るに忍びず。
現代語訳:私は恥ずかしくて、藺相如より下の地位にいることには耐えられない。
問7 「我見相如、必辱之」の「之」は誰を指すか。また、廉頗は何をしようとしているか。
答 「之」は藺相如。廉頗は、藺相如に会ったら必ず辱めようとしている。
問8 「相如聞、不肯与会」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:相如聞き、与に会することを肯ぜず。
現代語訳:藺相如はその話を聞き、廉頗と顔を合わせようとはしなかった。
問9 「不欲与廉頗争列」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:廉頗と列を争ふことを欲せず。
現代語訳:廉頗と朝廷での席次を争おうとはしなかった。
問10 藺相如は、朝廷で廉頗と顔を合わせることを避けるためにどのような行動をとったか。
答 朝廷に出仕する時には、いつも病気だと称して、廉頗と席次を争わないようにした。
問11 「相如引車避匿」という行動は、舎人たちにどのような印象を与えたか。
答 藺相如が廉頗を恐れて逃げ回っているという印象。
問12 「臣所以去親戚而事君者、徒慕君之高義也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:臣の親戚を去りて君に事ふる所以の者は、徒だ君の高義を慕へばなり。
現代語訳:私たちが親族のもとを離れてあなたに仕えている理由は、ただあなたの立派な徳義を慕っているからです。
問13 「所以」は、この文章ではどのような意味で使われているか。
答 理由。
問14 舎人たちが藺相如に仕えている理由を表す部分を、本文から七字で抜き出せ。
答 徒慕君之高義也
問15 「廉君宣悪言、而君畏匿之、恐懼殊甚」とは、舎人たちから見て藺相如がどのような状態であることを表しているか。
答 廉頗が悪口を言いふらしているのに、藺相如は廉頗を非常に恐れ、逃げ隠れしているように見える状態。
問16 「且庸人尚羞之、況於将相乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:且つ庸人すら尚ほ之を羞づ。況んや将相に於いてをや。
現代語訳:平凡な人でさえそのようなことを恥ずかしく思う。まして将軍や大臣ほどの人物なら、なおさらではないか。
問17 舎人たちはなぜ「臣等不肖、請辞去」と言ったのか。
答 藺相如の高い徳義を慕って仕えていたのに、相如が廉頗をひどく恐れて逃げ隠れしているように見え、その姿に失望したから。
問18 「臣等不肖、請辞去」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
答 書き下し文:臣等不肖なり。請ふ、辞し去らん。
現代語訳:私たちは愚かな者です。どうかお暇をいただいて、あなたのもとを去らせてください。
問19 「臣等不肖」という言葉には、舎人たちのどのような思いが込められていると考えられるか。
答 自分たちを「愚かな家来」とへりくだりながら、廉頗から逃げ続ける藺相如を皮肉り、相如が奮起して本当の考えを示すことを期待する思い。
問20 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。「徒だ」「賤人」「毎に」「匿る」「所以」「殊に」
答 ただ・せんじん・ごとに・かくる・ゆえん・ことに

→ 『史記』廉頗と藺相如「刎頸の交わり」②はこちら