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古典文法一覧(用言の活用・助動詞・助詞・敬語)

高校の古文で必要な文法を、グループごとにまとめました。それぞれ、意味と訳し方、接続(どの形に付くか)、活用、見分け方、教科書によく出る文章からの例文の順に並べています。記事の本文の品詞ラベルや「文法まとめ」からも、ここへ飛んで確認できます。

基本は最初に覚える項目です。

用言の活用

動詞・形容詞・形容動詞は、下に続く語によって形が変わります(活用)。古文を読む土台になるので、まず活用の種類と活用形を見分けられるようにします。活用形は「未然・連用・終止・連体・已然・命令」の六つです。

活用形のはたらき

用言基本
未然形助動詞(ず・む・じ・る・らる・す・さす・しむ・まし・まほし)や、接続助詞「ば」(仮定条件)が続く
連用形用言に続く・文をいったん中止する/「て」「つつ」/助動詞(き・けり・つ・ぬ・たり・けむ・たし)が続く
終止形文を言い切る/助動詞(べし・らむ・らし・まじ・めり・なり〈伝聞推定〉)が続く
連体形体言に続く/係助詞「ぞ・なむ・や・か」の結び/助動詞「なり(断定)」「ごとし」が続く
已然形接続助詞「ば」「ど」「ども」(確定条件)が続く/係助詞「こそ」の結び/助動詞「り」が続く
命令形命令の意味で言い切る

活用形は、下に続く語で決める。「ず・む」が続けば未然形、「て・たり」が続けば連用形、「ど・ども」が続けば已然形。ラ変型の活用語(あり・をり・侍り など)に終止形接続の助動詞が付くときは、連体形に付く(あるべし・あんめり)。

男君の来ずなりぬる、いとすさまじ。

通ってくるはずの男君が来なくなってしまうのは、ひどく興ざめだ。(「ず」が続く未然形)

枕草子

それを見て、

それを見て、(「て」が続く連用形)

伊勢物語

もろともに来べき人待つなるべし。

いっしょに来るはずの人を待っているのだろう。(「べし」が続く終止形)

更級日記

聞く人、ただならずすずろはしきまで愛敬づきて、

聞く人が、ただごとでなく、そわそわするほどにかわいらしさを感じて、(体言「人」に続く連体形)

源氏物語・若菜下

音には聞けども、いまだ見ぬなり。

うわさには聞くけれども、まだ見たことがないのだ。(「ども」が続く已然形)

竹取物語

まづ、紙燭さして来。この貝、顔見む。

まず、灯をともしてこちらへ来い。この貝の顔を見よう。(命令形)

竹取物語

四段活用

動詞基本
a・i・u・u・e・e書か・書き・書く・書く・書け・書け

「ず」を付けて「〜aず」(ア段)となる動詞。いちばん数が多い。行はカ・ガ・サ・タ・ナ・ハ・バ・マ・ラ行などにわたる(聞く=カ行、思ふ=ハ行、待つ=タ行)。終止形と連体形が同じ形で、已然形と命令形も同じ形になる。

悪人のまねとて人を殺さば、悪人なり。

悪人のまねだといって人を殺すなら、(それは)悪人である。(未然形+ば)

徒然草(第八十五段)

むすめは、さらに聞かず。

娘は、まったく聞き入れない。(未然形)

源氏物語・明石

「これなむ都鳥。」といふを聞きて、

「これが都鳥です。」と言うのを聞いて、(連用形)

伊勢物語

音には聞けども、いまだ見ぬなり。

うわさには聞くけれども、まだ見たことがないのだ。(已然形)

竹取物語

汝、よく聞け。

おまえ、よく聞け。(命令形)

今昔物語集

上二段活用

動詞基本
i・i・u・uる・uれ・iよ起き・起き・起く・起くる・起くれ・起きよ

「ず」を付けて「〜iず」(イ段)となる動詞(落つ・過ぐ・恋ふ・恥づ・朽つ など)。終止形がu段で終わるのに注意。連体形・已然形は「〜uる」「〜uれ」の形になる。ヤ行上二段「老ゆ・悔ゆ・報ゆ」は「い・い・ゆ・ゆる・ゆれ・いよ」と活用する。

露落ちて花残れり。

露が落ちて、花が残っている。(連用形)

方丈記

露の落つるに枝うち動きて、

露が落ちるときに枝が動いて、(連体形)

枕草子「九月ばかり」

落つれども軒にしられぬ玉水は

落ちるけれども軒に知られない玉水は(已然形)

千載集・巻一一

あなたへ向かって落ちよ。

あちらへ向かって落ちのびよ。(命令形)

平治物語

下二段活用

動詞基本
e・e・u・uる・uれ・eよ受け・受け・受く・受くる・受くれ・受けよ

「ず」を付けて「〜eず」(エ段)となる動詞(寝・出づ・いらふ・覚ゆ・上ぐ・受く など)。「寝(ぬ)」は終止形が「ぬ」なので「寝る」と読まない。下二段は数がとても多く、四段・上二段・下二段で動詞の大半をしめる。

さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、

そうはいっても、できあがるまで寝ないで待っているというのも、(未然形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

大音声上げて名のりけるは、

大声をはり上げて名のったことには、(連用形)

平家物語

袋など上ぐるだにあやしく重たきかな。

袋などを持ち上げるだけでも妙に重たいことだ。(連体形)

堤中納言物語

烽火を上ぐれども、

のろしを上げるけれども、(已然形)

平家物語

「上げよ。」とのたまふ声に驚きて、

「上げよ。」とおっしゃる声にはっとして、(命令形)

落窪物語

上一段活用

動詞基本
i・i・iる・iる・iれ・iよ見・見・見る・見る・見れ・見よ

数が少ないので暗記する。干る・射る・鋳る・着る・煮る・似る・見る・居る・率る・用ゐる(「ひいきにみゐる」で覚える)。「待ちゐる」「顧みる」「試みる」のような複合動詞も含む。射る・鋳る=ヤ行、居る・率る・用ゐる=ワ行、ほかはその行の「ひ・き・に・み」の行(ハ・カ・ナ・マ行)。

山までは見ず。

山までは見ない。(未然形)

徒然草・五二

無くなりぬと見れど、

なくなったと見るけれど、(已然形)

宇津保物語

わがうしろよりみそかに見よ。

私のうしろからこっそり見なさい。(命令形)

枕草子・一〇四

空き間を射ねば手も負はず。

鎧のすき間を射ないので、手傷も負わない。(ヤ行の「射る」)

平家物語

下一段活用

動詞基本
e・e・eる・eる・eれ・eよ蹴・蹴・蹴る・蹴る・蹴れ・蹴よ

「蹴る」一語だけ。語幹がなく、「け・け・ける・ける・けれ・けよ」と活用する。

鞠を蹴むと思ふ心つきて、

蹴鞠をしようという気持ちがとりついて、(未然形)

古今著聞集

さと寄りて一足づつ蹴る。

さっと寄って一足ずつ蹴る。(終止形)

落窪物語

この「尻蹴よ」といはるる相撲は、

この「尻を蹴れ」と言われる相撲取りは、(命令形)

宇治拾遺物語

カ行変格活用

動詞基本
こ・き・く・くる・くれ・こ(こよ)来・来・来・来る・来れ・来

「来(く)」一語。「出で来」「まうで来」「持て来」などの複合動詞もカ変。「来」の読みが活用形で変わる(未然「こ」・連用「き」・終止「く」…)ので、下に続く語で読みを決める。

男君の来ずなりぬる、いとすさまじ。

通ってくるはずの男君が来なくなってしまうのは、ひどく興ざめだ。(未然形「こ」)

枕草子

手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。

手に入れて家へ持ってきてしまった。(連用形「き」)

竹取物語

亡き人の来る夜とて魂まつるわざは、

亡くなった人が帰ってくる夜だといって霊をまつる行事は、(連体形)

徒然草・一九

春来れば雁帰るなり

春が来ると雁が帰っていくようだ(已然形)

古今集・巻一

いづら猫は。こち率て来。

猫はどこ。こちらへ連れておいで。(命令形「こ」)

更級日記

サ行変格活用

動詞基本
せ・し・す・する・すれ・せよす・おはす

「す」「おはす」の二語と、「念ず」「具す」「愛す」のように漢語や名詞に「す」「ず」が付いた複合動詞(「念ず」は「ぜ・じ・ず・ずる・ずれ・ぜよ」と濁るが、サ変として扱う)。「す」は単独で「〜する」の意味。名詞に付いて「物語す」「門出す」のように動詞を作る。

いざ、かいもちひせむ。

さあ、ぼたもちでも作ろうか。(未然形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

ひしひしと、ただ食ひに食ふ音のしければ、

むしゃむしゃと、ひたすら食べる音がしたので、(連用形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

十二月の二十日余り一日の日の戌の時に門出す。

十二月二十一日の午後八時ごろに出発する。(終止形)

土佐日記

立つ音すれば、帰り給ひぬ。

立つ物音がしたので、お帰りになった。(已然形)

源氏物語・若紫

これ手本にせよ。

これを手本にしなさい。(命令形)

更級日記

人の描かする仏もおはしけり。

人が描かせている仏もいらっしゃった。(「おはす」)

宇治拾遺物語「絵仏師良秀」

ナ行変格活用

動詞基本
な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね死ぬ・往ぬ(去ぬ)

「死ぬ」「往ぬ(去ぬ)」の二語。連体形「ぬる」・已然形「ぬれ」が特徴。「ず」を付けると「死なず」「往なず」と未然形が「な」になる。

あるいは焔にまぐれてたちまちに死ぬ。

ある者は炎に目がくらんで、たちまちのうちに死ぬ。(終止形)

方丈記

男女死ぬる者数十人、

男女で死んだ者が数十人、(連体形)

方丈記

つひにはその毒のゆゑに死ぬれども、

最後にはその毒のために死ぬけれども、(已然形)

宇治拾遺物語

死ねとてや。

死ねというのか。(命令形)

大和物語

それより逃げて往にけり。

そこから逃げ去ってしまった。(連用形、「往ぬ」)

宇治拾遺物語「検非違使忠明」

ラ行変格活用

動詞基本
ら・り・り・る・れ・れあり・をり・侍り・いまそかり

終止形が「り」で終わる(u段で終わらない)のが特徴。「あり」「をり」「侍り」「いまそかり(いますがり)」の四語と、「かかり」「さり」などの複合語。「あり」の連体形「ある」・「かかる」「さる」などは、下に「べし」「めり」「なり」が付くと撥音便「あん」「かん」になり、「ん」が書かれない(あなり・かなり)ことがある。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

祇園精舎の鐘の音には、万物は移り変わるという響きがある。(終止形)

平家物語

世にあるものならば、

世の中にいる人ならば、(連体形)

竹取物語

人あまたあれど、

人は大勢いるけれど、(已然形)

徒然草・五六

比叡の山に児ありけり。

比叡山に児がいた。(連用形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

形容詞(ク活用・シク活用)

形容詞基本
ク活用(く)/から・く/かり・し・き/かる・けれ・かれ
シク活用(しく)/しから・しく/しかり・し・しき/しかる・しけれ・しかれ

「なる」を付けて「〜くなる」ならク活用(高し・なし・よし・近し)、「〜しくなる」ならシク活用(うれし・をかし・わびし・美し)。活用表の「/」の右側(から・かり・かる・かれ)は補助活用で、「あり」が付いてできた形で、下に助動詞が付くときに使う(わろかりなむ・なかりけり)。終止形は「し」で、連体形は「き」。形容詞は命令形がほとんど使われないが、「なかれ」(禁止の「〜するな」)の形は覚える。

さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、

そうはいっても、できあがるまで寝ずに待つのも、きっと見苦しいだろうと思って、(ク活用の補助活用・連用形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

ずちなくて、無期ののちに、

どうにもならなくなって、長い時間がたってから、(ク活用・連用形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

月明かければ、いとよく有様見ゆ。

月が明るいので、様子がとてもよく見える。(ク活用・已然形)

土佐日記

初心の人、二つの矢を持つことなかれ。

初心の者は、二本の矢を持ってはならない。(ク活用・命令形)

徒然草・九二

うれしとは思へども、

うれしいとは思うけれども、(シク活用・終止形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

あさましきこと。

あきれたことだ。(シク活用・連体形)

宇治拾遺物語「絵仏師良秀」

形容動詞(ナリ活用・タリ活用)

形容動詞基本
ナリ活用なら・に/なり・なり・なる・なれ・(なれ)
タリ活用(たら)・と/たり・たり・たる・(たれ)・(たれ)

「静かなり」「あはれなり」「みそかなり」はナリ活用。「堂々たり」「茫々たり」のような漢語に付くものはタリ活用で、数が少ない。「静かに」「堂々と」の形は連用形。「に」「と」で終わる形に注意する。タリ活用は漢文訓読調の文章(平家物語・奥の細道 など)に出る。ナリ活用の命令形・タリ活用の未然形・已然形・命令形はほとんど使われない。

身もくたびれ、心も静かならず。

体も疲れ、心も落ち着かない。(ナリ活用・未然形)

徒然草・一七〇

いま静かに、御局にさぶらはん。

もう少ししたら静かに、お部屋に参りましょう。(ナリ活用・連用形)

枕草子・八

静かなる御有様に、あはれすくなからず。

落ち着いたご様子に、しみじみとした思いが少なくない。(ナリ活用・連体形)

源氏物語・鈴虫

心おのづから静かなれば無益のわざをなさず。

心が自然と落ち着いているので、むだなことをしない。(ナリ活用・已然形)

徒然草・一七二

雨朦朧として鳥海の山かくる。

雨がけむって、鳥海山が隠れる。(タリ活用・連用形)

奥の細道

南は蒼海漫々として岸打つ波も茫々たり。

南は青い海が広々として、岸を打つ波も果てしなく響く。(タリ活用・終止形)

平家物語

漫々たる海上なれば、

広々とした海上なので、(タリ活用・連体形)

平家物語

活用の行に注意すべき動詞

動詞
上一段(ヤ行・ワ行)ヤ行=射る・鋳る/ワ行=居る・率る・用ゐる
上二段(ヤ行)老ゆ・悔ゆ・報ゆ
下二段(ア行・ヤ行・ワ行)ア行=得(う)/ヤ行=覚ゆ・見ゆ・聞こゆ・消ゆ/ワ行=植う・飢う・据う

語頭の「い」「ゐ」「え」「ゑ」で行を見分ける。「得」は「え・え・う・うる・うれ・えよ」と活用する。語幹と活用語尾の区別がなく、「え」で始まる。連用形が「え」でも、副詞の「え(〜ず)」と区別する。「経(ふ)」はハ行下二段、「寝(ぬ)」はナ行下二段で、どちらも語幹がない。

老いたるあり、若きあり。

年をとった者もいれば、若い者もいる。(ヤ行上二段「老ゆ」)

徒然草・七四

三寸ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。

三寸ほどの人が、たいそうかわいらしい様子で座っている。(ワ行上一段「居る」)

竹取物語

「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて旅の心を詠め。」

「かきつばたという五文字を各句の頭に置いて、旅の思いを詠め。」(ワ行下二段「据う」)

伊勢物語・九

女のえ得まじかりけるを、

手に入れられそうになかった女を、(ア行下二段「得」)

伊勢物語・六

形容詞・形容動詞の語幹の用法

形容詞・形容動詞
語幹だけで感動を表す〜だなあ(「あな」「いで」を伴うことが多い)
語幹+の+体言〜な(語幹+の)
〜を+語幹+み〜が…ので(原因・理由)

語幹だけの形は、終助詞「や」を付けて言い切ったり、「あな(ああ)」の後に置いて感動を表したりする。「語幹+の」は連体修飾で、形容詞でも使う(をかしの御髪や)。「〜を(が)+形容詞の語幹+み」は、「〜が…なので」と理由を表す(瀬をはやみ=瀬の流れが速いので)。「あな+語幹」は呼応の副詞の項も参照。

いで、あなをさなや。

まあ、なんと幼いこと。

源氏物語・若紫

あないみじ。犬を蔵人二人して打ちたまふ。

ああ大変。犬を蔵人二人が打っていらっしゃる。

枕草子

をかしの御髪や。

きれいなお髪ですこと。

源氏物語・若紫

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ

川瀬の流れが速いので岩にせき止められる滝川が、二つに分かれてもまた下流で合うように、別れてもいつかきっと逢おうと思う。

詞花集・巻七

山深み春とも知らぬ松の戸に絶え絶えかかる雪の玉水

山が深いので、春になったとも知らない松の戸に、とぎれとぎれに落ちかかる雪解けのしずく。

新古今集・巻一

音便

用言
イ音便き・ぎ・し→い(書きて→書いて、仰ぎて→仰いで、続きて→続いて)
ウ音便く・ぐ・ひ・み・び→う(うつくしくて→うつくしうて、問ひて→問うて、頼みて→頼うで)
撥音便み・び・に・り→ん(読みて→読んで、死にて→死んで)
促音便ち・ひ・り→っ(立ちて→立つて、思ひ立ちて→思ひ立つて、打ち入りたり→打ち入つたり)
撥音便の無表記ラ変の連体形+なり・めり:ある→あん→あ(あなり・あめり、かかるなり→かかんなり→かかなり)

発音しやすいように形が変わったもの。読むときは、もとの活用形(多くは連用形)に戻して考える。動詞は連用形に「て」「たり」「たる」などが続く場合、形容詞は連用形(く)に「て」が続く場合、ラ変型の連体形に「なり」「めり」が続く場合に起こる。撥音便の「ん」は書かれないことが多い(あなり=あんなり)。「あなり」「なかなり」は、もとの形(あるなり・なかるなり)に戻して読む。

夏虫、いとをかしうらうたげなり。

夏の虫は、とても趣があってかわいらしい。(ウ音便:をかしく→をかしう)

枕草子

やがて続いて、打ち入つたり。

すぐに続いて、討ち入った。(イ音便:続き→続い/促音便:打ち入り→打ち入つ)

平家物語

思ひ立つて参りてさぶらふを、

思い立って参上しておりますのを、(促音便:思ひ立ち→思ひ立つ)

平家物語

このごろ盗人いとおほかなり。

このごろ盗人がたいへん多いようだ。(撥音便の無表記:おほかるなり→おほかんなり→おほかなり)

枕草子

心恥づかしき人住むなる所にこそあなれ。

気がひける立派な人が住んでいるという所であるようだ。(撥音便の無表記:あるなれ→あんなれ→あなれ)

源氏物語・若紫

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助動詞① 過去・完了

助動詞は、用言などに付いて意味を添える語で、活用します。接続(どの活用形に付くか)・活用・意味の三つを覚えます。まず、物語を読むのに欠かせない過去と完了の助動詞から。

き

助動詞基本
過去〜た・〜ていた

接続連用形

活用(せ)・〇・き・し・しか・〇

話し手が直接知っている・体験した過去を表すのが基本。伝聞や気づきが入る「けり」と対になる。連体形「し」・已然形「しか」の形(〜しか+ば/ど)で出ることが多く、終止形「き」は文末にしか出ない。活用の型は特殊型。接続は連用形だが、カ変は「こし・きし」、サ変は「せし」の形になる(カ変・サ変には未然形にも付く)。下に「つ」「ぬ」と合わせた「にき」「てき」の形もよく出る(完了+過去)。

京より下りし時に、みな人、子どもなかりき。

都から下ってきたときには、だれにも子どもがいなかった。

土佐日記

雨のいたく降りしかば、え参らずなりにき。

雨がひどく降ったので、参上できなくなってしまった。

大和物語

清涼殿の御前の梅の木の枯れたりしかば、

清涼殿の前の梅の木が枯れてしまったので、

大鏡

山高み見つつ我が来し桜花

山が高いので、眺めながらやって来た桜の花(よ)

古今集・巻二

けり

助動詞基本
過去〜た・〜たそうだ(伝聞過去)
詠嘆〜たなあ・〜だなあ(今気づいた驚き・感動)

接続連用形

活用(けら)・〇・けり・ける・けれ・〇

人から聞いた過去や、昔話・物語の語り出しに使うのが「過去(伝聞過去)」。会話文・和歌の中や、「なりけり」「〜ざりけり」の形では、今気づいたことを表す「詠嘆」になりやすい。活用の型はラ変型で、連体形「ける」・已然形「けれ」は係り結びの「ぞ・なむ・や・か」「こそ」の結びになる。

今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。

今となっては昔のことだが、竹取の翁という者がいた。(過去)

竹取物語

僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、

僧たちが、宵の退屈なときに、「さあ、ぼたもちを作ろう。」と言ったのを、(過去・連体形)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

寝入りたまひにけり。

寝入っておしまいになったよ。(詠嘆)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

いとうつくしう生ひなりにけり。

とてもかわいらしく成長したなあ。(詠嘆)

更級日記

あひみてののちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり

逢ってからの切ない気持ちに比べると、昔は物思いなどしていなかったのだなあ。(詠嘆)

拾遺集・巻一二

つ

助動詞基本
完了〜た・〜てしまった
強意きっと〜・確かに〜(下に推量の助動詞が付く)
並列〜たり〜たり(「〜つ〜つ」の形)

接続連用形

活用て・て・つ・つる・つれ・てよ

動作が終わったことを表す完了のほかに、下に推量の助動詞(む・べし・らむ・けむ・まし・らし・めり)が付くと強意になる(てむ・つべし・てまし)。強意は、完了+推量で「きっと〜だろう」「〜しそうだ」と訳す。「つ」は人の意志的な動作に付きやすい(「ぬ」は自然の変化に付きやすい)という目安がある。活用の型は下二段型。「〜つ〜つ」の形は並列。

なよ竹のかぐや姫とつけつ。

なよ竹のかぐや姫と名づけた。(完了)

竹取物語

ほととぎす鳴きつる方をながむれば

ほととぎすが鳴いた方角を眺めると、(完了・連体形)

千載集・巻三

楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、

楊貴妃の先例まで引き合いに出されそうな状態になっていくので、(強意)

源氏物語・桐壺

組んづ組まれつ、討ちつ討たれつ、

組んだり組まれたり、討ったり討たれたりして、(並列)

源平盛衰記

ぬ

助動詞基本
完了〜た・〜てしまった
強意きっと〜・確かに〜(下に推量の助動詞が付く)
並列〜たり〜たり(「〜ぬ〜ぬ」の形)

接続連用形

活用な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね

「なむ」「ぬべし」「なまし」など、下に推量の助動詞が付く形は強意(きっと〜だろう、〜しそうだ)。自然に起こる変化(暮る・散る・なる)に付きやすい。活用の型はナ変型。打消の「ず」の連体形「ぬ」・已然形「ね」と見分ける(完了は連用形に付き、打消は未然形に付く)。例:行かぬ(打消)、行きぬ(完了)。「ね」は、「ば」「ども」が続けば打消の已然形、文末なら完了の命令形。

今日は日暮れぬ。

今日は日が暮れてしまった。(完了)

平家物語(那須与一)

古き墳はすかれて田となりぬ。

古い墓は鋤き返されて田になってしまった。(完了)

徒然草・三〇

さりとて、し出ださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、

そうはいっても、できあがるまで寝ずに待つのも、きっと見苦しいだろうと思って、(強意)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

黒き雲にはかに出で来ぬ。風吹きぬべし。

黒い雲が急に出てきた。風がきっと吹くだろう。(完了・強意)

土佐日記

白波の上にただよひ、うきぬしづみぬゆられければ、

白波の上にただよい、浮いたり沈んだり揺られたので、(並列)

平家物語

たり(完了)

助動詞基本
完了〜た・〜てしまった
存続〜ている・〜てある

接続連用形

活用たら・たり・たり・たる・たれ・(たれ)

「て+あり」が一語になったもの。動作が終わったことなら完了、その結果や状態が続いているなら存続(見分けは「〜ている」と訳せるか)。「着たり」「立てり」「咲きたり」など状態を表す動詞に付くと存続になりやすい。活用の型はラ変型。体言に付く断定の助動詞「たり」(〜である)と区別する。連用形に付く(完了・存続)か、体言に付く(断定)かを見る。

くらもちの皇子おはしたり。

くらもちの皇子がいらっしゃった。(完了)

竹取物語

し出だしたるさまにて

作り上げた様子で(完了)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。

その沢にかきつばたがたいそう趣深く咲いている。(存続)

伊勢物語・九

寝たるよしにて

寝ているふりをして(存続)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

り

助動詞基本
完了〜た・〜てしまった
存続〜ている・〜てある

接続サ変の未然形・四段の已然形

活用ら・り・り・る・れ・(れ)

接続が特別なので「サ未四已(さみしい)」と覚える。サ変は未然形、四段は已然形に付く。「e段+り・る・れ」の形で見つける(言へり・咲けり・思へる)。活用の型はラ変型。サ変・四段以外の動詞には付かない(上二段などには「たり」を使う)。完了か存続かは、「たり」と同じように、動作が終わったのか、状態が続いているのかで決める。

大和人、「来む。」と言へり。

大和の男は、「行こう。」と言った。(完了)

伊勢物語

五十の春を迎へて、家を出て世をそむけり。

五十歳の春を迎えて、家を出て世を捨てた。(完了)

方丈記

富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。

富士の山を見ると、五月の末なのに、雪がたいそう白く降っている。(存続)

伊勢物語・九

おごれる人も久しからず

おごり高ぶっている人も長くは続かない(存続)

平家物語

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助動詞② 打消・推量

打消の「ず」と、推量・意志などを表す「む・むず・べし・じ・まじ・らむ・けむ・らし・めり・なり・まし」をまとめます。推量系の助動詞は意味が複数あるので、主語(人称)・上下の語・文の形から意味を見分けます。「らし・めり・なり」は根拠の違い(状況・目・耳)で区別します。

ず

助動詞基本
打消〜ない・〜ないで

接続未然形

活用(ず)/ざら・ず/ざり・ず・ぬ/ざる・ね/ざれ・ざれ

活用は特殊型。「ず・ず・ず・ぬ・ね」の系列と、ラ変型に活用する「ざら・ざり・ざる・ざれ」の系列がある。
下に助動詞(き・けり・む・たり など)が続くときは、「ざら・ざり・ざる・ざれ」の系列を使う(ざらむ・ざりけり)。
連体形「ぬ」・已然形「ね」は、完了の助動詞「ぬ」「ね」と同じ形。直前が未然形なら打消、連用形なら完了。「見ぬ人」は打消、「咲きぬ」は完了。
「〜ねば」は已然形+ば で、「〜ないので」と原因・理由になることが多い。未然形の「ず」は「ずは」の形で出て、「〜ないならば」と仮定を表す。

行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。

流れてゆく川の流れは絶えないで、それでいて、もとの水ではない。(連用形・終止形)

方丈記

京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。

都では見かけない鳥なので、誰もその鳥を見知らない。(連体形・終止形)

伊勢物語

あき間を射ねば手も負はず。

(鎧の)すき間を射ないので、傷も負わない。(已然形+ば)

平家物語(木曽の最期)

わたうたちこそ、させる能もおはせねば、ものをも惜しみたまへ。

お前たちこそ、たいした才能もお持ちでないのだから、物を惜しみなさるがよい。(已然形+ば)

宇治拾遺物語(絵仏師良秀)

寝ざらむも

寝ないでいるようなのも(未然形「ざら」+「む」)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

かかる目見むとは思はざりけむ。

こんな目にあうとは思わなかっただろうに。(連用形「ざり」+「けむ」)

枕草子

む(ん)

助動詞基本
推量〜だろう
意志〜しよう・〜するつもりだ
適当・勧誘〜するのがよい・〜しませんか
仮定・婉曲〜としたら(仮定)・〜ような(婉曲)

接続未然形

活用〇・〇・む(ん)・む(ん)・め・〇

活用は四段型。「ん」と書くこともある。
文末では、主語が一人称(私)なら意志、二人称(あなた)なら適当・勧誘、三人称(それ以外)なら推量、が基本の見分け方。
文中で「〜む+体言」「〜むは」「〜むも」「〜むには」の形なら、仮定・婉曲。「〜としたら」と訳して通れば仮定、「〜ような」と訳せば婉曲(ぼかした言い方)。
「こそ〜め」(已然形の結び)や「〜給はむや」の形は、適当・勧誘が多い。
完了の「ぬ」「つ」が前に付いた「なむ」「てむ」は、「きっと〜だろう」「きっと〜しよう」と強意になる(強意+推量・意志)。
「あらむ」「ならむ」は、動詞「あり」・助動詞「なり」の未然形に「む」が付いた形。「なむ」の識別は『古典文法の識別』も見る。

少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。

少納言よ、香炉峰の雪はどんなであろう。(推量)

枕草子

百千の家も出で来なむ。

百軒や千軒の家だって、きっと建つだろう。(強意+推量)

宇治拾遺物語(絵仏師良秀)

いざ、かいもちひせむ。

さあ、ぼたもちを作ろう。(意志)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

もの申しさぶらはむ。

ちょっと申し上げよう。(意志)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

などかくは急ぎ給ふ。花を見てこそ帰り給はめ。

どうしてそんなに急ぎなさるのか。花を見てからお帰りになってはどうか。(適当・勧誘)

宇津保物語

かかるついでに見奉り給はむや。

この機会に拝見なさってはいかがですか。(勧誘)

源氏物語(若紫)

ただ一度にいらへむも

ただ一度で返事をするとしたら、それも(仮定)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

(犬を)二人して打たむには、侍りなむや。

(犬を)二人がかりで打ったとしたら、生きていられましょうか。(仮定)

枕草子

心あらむ友もがな。

情趣を解するような友がいてほしいなあ。(婉曲)

徒然草

むず(んず)

助動詞基本
推量〜だろう
意志〜しよう・〜するつもりだ
適当・勧誘〜するのがよい
婉曲〜ような

接続未然形

活用〇・〇・むず(んず)・むずる(んずる)・むずれ(んずれ)・〇

「むとす」が縮まったもので、「む」とほぼ同じ意味・用法。活用はサ変型。「んず」と書くこともある。
終止形「むず」は推量・意志、連体形「むずる」は体言に続いて婉曲(〜ような)になることがある。疑問の語と一緒なら「どうすればよいか」の意味になる。

かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。

あの元の国(月の都)から、迎えに人々が参上するだろう。(推量)

竹取物語

いづちもいづちも足の向きたらむ方へ往なむず。

どこへでも足の向いた方へ行こう。(意志)

竹取物語

さだめておどろかさむずらむ

きっと起こそうとするだろう(「むず」+「らむ」)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

いかがせんずる。

どうすればよいだろうか。(適当)

平家物語

平家滅ぼさむずる謀をぞめぐらしける。

平家を滅ぼすようなはかりごとをめぐらしていた。(婉曲)

平家物語(鹿の谷)

べし

助動詞基本
推量〜だろう・〜にちがいない
意志〜しよう・〜するつもりだ
当然・義務〜はずだ・〜なければならない
適当・勧誘〜するのがよい・〜したらよい
可能〜できる
命令〜せよ

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用(べく)/べから・べく/べかり・べし・べき/べかる・べけれ・〇

意味は「推・意・当・適・可・命」(推量・意志・当然・適当・可能・命令)と覚える。活用は形容詞型。
見分け方:主語が一人称なら意志、二人称なら命令・適当・勧誘、三人称なら推量・当然が基本。打消や「え」を伴えば可能。
「べからず」は、可能の打消(〜できない)か、命令の打消=禁止(〜てはならない)。
完了の「ぬ」「つ」に付いた「ぬべし」「つべし」は強意+推量で、「きっと〜だろう」。
連用形「べく」は「べう」(ウ音便)、連体形「べき」は「べい」になることがある。打消は「まじ」。

潮満ちぬ。風も吹きぬべし。

潮が満ちた。風もきっと吹くだろう。(強意+推量)

土佐日記

毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。

毎回、ただ当たりはずれを考えることなく、この一矢で決めようと思え。(意志)

徒然草

人、死を憎まば、生を愛すべし。

人は、死を憎むのなら、生を大切にしなければならない。(当然・義務)

徒然草

この戒め、万事にわたるべし。

この教えは、すべてのことに通じるはずだ。(当然)

徒然草

はじめよりおしなべての上宮仕へしたまふべききはにはあらざりき。

はじめから、並ひととおりの宮仕えをなさるはずの身分ではなかった。(当然)

源氏物語(桐壺)

作文のにぞ乗るべかりける。

漢詩の舟に乗るのがよかったのだなあ。(適当)

大鏡

これは、さらにさやうにさし退けなどすべき御車にもあらず。

これは、けっしてそのように立ちのかせたりしてよいお車ではない。(適当)

源氏物語(葵)

羽なければ、空をも飛ぶべからず。

羽がないので、空を飛ぶこともできない。(可能の打消)

方丈記

この御にほひには並び給ふべくもあらざりければ

この若宮のお美しさには並びなさることもできなかったので(可能の打消)

源氏物語(桐壺)

これは汝(なんぢ)が髻(もとどり)と思ふべからず、主(しゅう)の髻と思ふべし。

これはお前の髻と思ってはならない、主君の髻と思え。(禁止・命令)

平家物語

じ

助動詞基本
打消推量〜ないだろう
打消意志〜ないつもりだ・〜まい

接続未然形

活用〇・〇・じ・じ・じ・〇

「む」の打消にあたる。活用は無変化型(じ・じ・じの形だけ)。
主語が一人称なら打消意志(〜ないつもりだ・〜まい)、三人称なら打消推量(〜ないだろう)。
形容詞に付くときは「をかしからじ」のように補助活用(カリ活用)の未然形に付く。

月ばかりおもしろきものはあらじ。

月ほど趣深いものはあるまい。(打消推量)

徒然草

人の心にはつゆをかしからじと思ふこそ、またをかしけれ。

他人の心には少しもおもしろくないだろうと思うのも、またおもしろいことだ。(打消推量)

枕草子(九月ばかり)

京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに

都にはいまい、東国の方に住める国を探しに(打消意志)

伊勢物語

まじ

助動詞基本
打消推量〜ないだろう
打消意志〜ないつもりだ
打消当然〜はずがない
不適当・禁止〜ないほうがよい・〜てはならない
不可能〜できそうにない

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用(まじく)/まじから・まじく/まじかり・まじ・まじき/まじかる・まじけれ・〇

「べし」の打消にあたる。活用は形容詞型。
べしの意味に対応して、推量→打消推量、意志→打消意志、当然→打消当然、適当→不適当・禁止、可能→不可能、になる。
「え〜まじ」の形や、「世にあるまじき」のように連体形で体言に続く形は、不可能になることが多い。
主語が一人称なら打消意志、二人称なら禁止(〜てはならない・〜ないほうがよい)が目安。

冬枯れの景色こそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。

冬枯れの景色は、秋の景色にほとんど劣らないだろう。(打消推量)

徒然草

なほ仕うまつるまじきことを参りて申さむ。

やはり宮仕えはしないということを参上して申し上げよう。(打消意志)

竹取物語

傷害のおそれおはしますまじき御身にて

危害を受けるおそれがおありになるはずのないご身分で(打消当然)

徒然草

妻といふものこそ、男の持つまじきものなれ。

妻というものは、男が持たないほうがよいものだ。(不適当)

徒然草

世にあるまじき心地のしければ

この世に生きていられそうにない気持ちがしたので(不可能)

竹取物語

おぼろけの紙はえ張るまじければ

ふつうの紙では張ることができそうにないので(不可能)

枕草子

らむ(らん)

助動詞基本
現在推量今ごろは〜ているだろう
現在の原因推量どうして〜ているのだろう
伝聞・婉曲〜という・〜ような

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用〇・〇・らむ(らん)・らむ(らん)・らめ・〇

活用は四段型。目の前にない「今」の事柄を推量するのが基本で、「今ごろ〜ているだろう」と訳す。
「など・なぞ・いかで・何」などの疑問語や、「や・か」「ば〜や」と一緒に使われれば、現在の原因推量(どうして〜ているのだろう)。
体言に続く連体形「らむ」は、伝聞(〜という)・婉曲(〜ような)。
過去のことを推量する「けむ」と対になる。「あらむ」「ならむ」のように「ら」が前の語の一部のときは、助動詞「らむ」ではない。

風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君が一人越ゆらむ

風が吹くと沖の白波が立つ、その名の竜田山を、夜中の今ごろ、あなたは一人で越えているだろうか。(現在推量)

伊勢物語

春立つ今日の風やとくらむ

立春の今日の風が、今ごろ解かしているのだろうか。(現在推量)

古今集

秋はなほもみぢすればや照りまさるらむ

秋はやはり紅葉するからだろうか、いっそう明るく照っているのだろう。(現在の原因推量)

古今集

何に来つらむと思ふにかひなし。

なぜ来てしまったのだろうと思うが、どうにもならない。(現在の原因推量)

源氏物語(葵)

人の言ふらむことをまねぶらむよ。

人が口にするようなことをまねするそうだよ。(婉曲・伝聞)

枕草子

けむ(けん)

助動詞基本
過去推量〜ただろう
過去の原因推量どうして〜たのだろう
過去の伝聞・婉曲〜たとかいう・〜たような

接続連用形

活用〇・〇・けむ(けん)・けむ(けん)・けめ・〇

活用は四段型。過去のことを推量する。
「や・か」や疑問語(なぞ・などか・いかで)と一緒なら、過去の原因推量(どうして〜たのだろう)。
連体形で体言に続くときは、過去の伝聞・婉曲(〜たとかいう・〜たような)。
現在のことなら「らむ」。「けむ」の前は連用形(「思ひけむ」)で、「き」の連体形「し」+「む」ではない。

かかる目見むとは思はざりけむ。

こんな目にあうとは思わなかっただろう。(過去推量)

枕草子

昔は聞きけんものを、木曽の冠者、今は見るらん、

昔は(噂に)聞いたであろうが、木曽の冠者を、今は(目の前に)見ているだろう、(過去推量・現在推量)

平家物語(木曽の最期)

前の世にも、御契りや深かりけむ、

前世でも、ご宿縁が深かったのだろうか、(過去の原因推量)

源氏物語(桐壺)

夕べは秋となに思ひけむ

夕暮れの景色は秋が一番などと、どうして(今まで)思っていたのだろう。(過去の原因推量)

新古今集

吾を待つと君が濡れけむあしひきの山のしづくに成らましものを

私を待つといってあなたが濡れたという山のしずくに、なれたらよいのに。(過去の伝聞)

万葉集

らし

助動詞
推定〜らしい・〜にちがいない

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用〇・〇・らし・らし・らし・〇

活用は無変化型(終止形と同じ「らし」の形だけ)。目の前の事実を根拠にした推定で、和歌に多い。
根拠がはっきり示されるのが特徴(「夏来たるらし」の根拠は「衣干したり」)。
「ぞ・なむ・や・か・こそ」の結びでも「らし」の形のまま。
推定の三語の違い:らし=根拠のある推定、めり=目で見た推定、なり=耳で聞いた推定。

春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天の香具山

春が過ぎて夏が来たらしい。真っ白な衣が干してある、天の香具山に。(推定)

万葉集

この川にもみぢ葉流る奥山の雪消(ゆきげ)の水ぞいままさるらし

この川にもみじの葉が流れている。山奥の雪どけ水が、今増えているらしい。(推定・係り結び「ぞ」の結び)

古今集

み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり

吉野の山に白雪が積もっているらしい。故郷(旧都)は寒さがつのる。(推定)

古今集

めり

助動詞基本
推定〜ようだ・〜と見える
婉曲〜ようだ

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用〇・(めり)・めり・める・めれ・〇

活用はラ変型。目で見たこと(視覚)にもとづく推定で、「〜ようだ・〜と見える」と訳す。
実際に見ていない場面では、断定を避ける婉曲(〜ようだ)として使う。
「なめり」は「なるめり」の撥音便「なんめり」の「ん」を書かない形。「あめり」「ざめり」も同じ(あるめり・ざるめり)。

すだれすこし上げて、花奉るめり。

すだれを少し巻き上げて、花をお供えしているようだ。(推定)

源氏物語(若紫)

人待つなめりと見るに

人を待っているようだと見ていると(推定)

大和物語

坊にも、ようせずは、この皇子のゐたまふべきなめり。

皇太子の位にも、ことによるとこの皇子がお就きになるのではないか。(推定)

源氏物語(桐壺)

「この枝、かの枝散りにけり。今は見どころなし。」などは言ふめる。

「この枝もあの枝も散ってしまった。今は見る値打ちがない。」などと言うようだ。(婉曲)

徒然草

なり(伝聞・推定)

助動詞基本
伝聞〜そうだ・〜という
推定〜ようだ(聞いたところ)

接続終止形(ラ変型には連体形)

活用〇・(なり)・なり・なる・なれ・〇

活用はラ変型。耳で聞いたこと(聴覚)にもとづく。声・音・うわさなどが根拠なら推定(聞こえるところでは〜ようだ)、人から聞いた話なら伝聞(〜そうだ・〜という)。
断定の「なり」(体言・連体形に付く)と見分ける。動詞の終止形(「す」「鳴く」)に付いていれば伝聞・推定。
ラ変の語に付くときは「あるなり」→「あんなり」→「あなり」のように、連体形+撥音便になる。「あなり」は ラ変動詞「あり」+なり。

男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。

男が書くという日記というものを、女(である私)もしてみようと思って書くのである。(伝聞)

土佐日記

秋の野に人まつ虫の声すなりわれかと行きていざとぶらはむ

秋の野に、人を待つという名の松虫の声がするようだ。「私を待っているのか」と、さあ行って尋ねよう。(推定)

古今集

世の中に物語といふもののあんなるを

世の中に物語というものがあるそうだが、それを(伝聞)

更級日記

みな人は花の衣になりぬなり

人々はみな花やかな衣に着替えたそうだ。(伝聞)

古今集

あやしき山がつさへ見奉らむとすなれ。

卑しい山里の者までもお見申し上げようとするそうだ。(伝聞・「こそ」の結び)

源氏物語(葵)

み吉野の山の白雪つもるらしふるさと寒くなりまさるなり

吉野の山に白雪が積もっているらしい。故郷(旧都)は寒さがつのるようだ。(推定)

古今集

まし

助動詞基本
反実仮想もし〜だったら〜だろうに
実現不可能な希望できれば〜ならよかったのに
ためらいの意志〜しようかしら
推量〜だろう

接続未然形

活用(ませ)/ましか・〇・まし・まし・ましか・〇

活用は特殊型。事実と違うことを仮に想像する「反実仮想」が基本。
「せば〜まし」「ませば〜まし」「ましかば〜まし」「未然形+ば〜まし」の形は反実仮想(もし〜だったら、〜だろうに)。
「や・か・いかに」など疑問を含む文で、主語が一人称なら、迷いを表すためらいの意志(〜しようかしら)。
「〜なまし」「〜てまし」は、実現しなかったことへの願い(〜ばよかったのに)。「ものを」と一緒に出ることが多い。
反実仮想・実現不可能な希望・ためらいの意志の3つを押さえておく。教材によっては「推量(〜だろう)」を4つ目に立てるものもあり、中世以降に見られる用法とされる。

世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

もしこの世に桜がまったくなかったなら、春の心はのどかだろうに。(反実仮想)

古今集

目もあやなる御さま容貌のいとどしう出で栄えを見ざらましかばと思さる。

まぶしいほどのお姿やご容貌が、晴れの場でいっそう引き立つのを、もし見なかったとしたら(残念だっただろう)とお思いになる。(反実仮想)

源氏物語(葵)

見る人もなき山里の桜花ほかの散りなむ後ぞ咲かまし

見る人もいない山里の桜の花よ、できればほかの桜が散ってしまったあとに咲けばよかったのに。(実現不可能な希望)

古今集

白玉かなにぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを

「あれは白玉か、何か」と人が尋ねたとき、「露です」と答えて消えてしまったらよかったのに。(実現不可能な希望)

伊勢物語

これに何を書かまし。

これに何を書こうかしら。(ためらいの意志)

枕草子

いかにせまし。たはぶれにくくもあるかな。

どうしようか。冗談では済まないことだなあ。(ためらいの意志)

源氏物語(明石)

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助動詞③ 受身・使役・希望・断定・比況

「る・らる」「す・さす・しむ」は意味が複数あり、敬語とも関わるので、見分け方が大切です。希望の「たし・まほし」、断定の「なり・たり」、比況の「ごとし」もここでまとめます。断定の「なり」は、伝聞・推定の「なり」(接続が違う)と区別して覚えます。

る・らる

助動詞基本
受身〜れる・〜られる
尊敬〜なさる・お〜になる
自発自然と〜れる・〜ずにはいられない
可能〜できる

接続「る」は四段・ナ変・ラ変の未然形(a段)、「らる」はそれ以外の未然形

活用れ・れ・る・るる・るれ・れよ/られ・られ・らる・らるる・らるれ・られよ

活用は下二段型。自発・可能には命令形がない(「れよ・られよ」は受身・尊敬のとき)。
受身:「〜に」(動作をする人)が示され、主語が動作を受ける。
尊敬:主語が身分の高い人で、「仰せらる」「乗らる」のように敬意が加わる。
自発:「思ふ・泣く・見る・偲ぶ・思ひ出づ・知る」など、心の動きや知覚を表す語に付く。
可能:平安時代は、ふつう「寝られず」のように下に打消を伴う(中世の『徒然草』などでは肯定の可能も出る)。
上代の「ゆ・らゆ」が、のちに「る・らる」になった。

軒近き荻のいみじく風に吹かれて、砕けまどふが

軒近くの荻が激しく風に吹かれて、砕け散るのが(受身)

更級日記

ありがたきもの、舅にほめらるる婿。

めったにないもの、舅にほめられる婿。(受身)

枕草子

いま一声呼ばれていらへむと

もう一声呼ばれてから返事をしようと(受身)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

かの大納言、いづれの船にか乗らるべき。

あの大納言殿は、どの船にお乗りになるのだろうか。(尊敬)

大鏡

いかでかくはおぼしめし、仰せらるるぞ。

どうしてそのようにお思いになり、おっしゃるのですか。(尊敬)

大鏡

住みなれしふるさとかぎりなく思ひ出でらる。

住みなれたもとの家が、この上なく思い出される。(自発)

更級日記

心なき身にもあはれは知られけり

風流を解さない私の身にも、しみじみとした趣が自然と感じられることだ。(自発)

新古今集

さすがにつらき人の御前渡りの待たるるも心弱しや、

そうはいってもやはり、薄情な人のお通りが自然と待たれるのも、気持ちが弱いことよ。(自発)

源氏物語(葵)

冬はいかなる所にも住まる。

冬はどんな所にでも住むことができる。(可能)

徒然草

恐ろしくて寝も寝られず。

恐ろしくて、眠ることもできない。(可能)

更級日記

す・さす・しむ

助動詞基本
使役〜せる・〜させる
尊敬〜なさる・お〜になる

接続「す」は四段・ナ変・ラ変の未然形、「さす」はそれ以外の未然形、「しむ」はすべての未然形

活用せ・せ・す・する・すれ・せよ/させ・させ・さす・さする・さすれ・させよ/しめ・しめ・しむ・しむる・しむれ・しめよ

活用は下二段型。「しむ」は漢文訓読調の文章に多い。
下に尊敬語(給ふ・おはします)が続けば、尊敬の可能性が高い。「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」は、最高敬語(二重敬語)として天皇・中宮などの動作に使う。
ただし、「〜に」と使役の相手が示されていれば、下に「給ふ」があっても使役(+「給ふ」で敬意)。「人に抱かせ給はむ」は使役。
下に尊敬語がなければ、使役と考える。
同じ文に2回出るときは別々に判断する(「あげさせて……笑はせ給ふ」は、前が使役、後ろが尊敬)。

妻の嫗にあづけて養はす。

妻である老女にあずけて育てさせる。(使役)

竹取物語

御格子あげさせて、御簾を高くあげたれば

(女官に)御格子を上げさせて、(私が)御簾を高く上げたところ(使役)

枕草子

人を苦しめ、法を犯さしめて、それを罪なはん事、不便のわざなり。

人を苦しめ、法を犯させておいて、それを罰するようなことは、かわいそうなことだ。(使役)

徒然草

髪上げさせ、裳着す。

髪上げをさせ、裳を着せる。(使役)

竹取物語

人の描かする仏もおはしけり。

人が(良秀に注文して)描かせている仏の絵も、家の中にいらっしゃった。(使役)

宇治拾遺物語(絵仏師良秀)

おどろかせたまへ。

お目覚めなさいませ。(尊敬)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

「我をば謀るなりけり。」とてこそ泣かせ給ひけれ。

「私をだましたのだな。」とおっしゃってお泣きになった。(尊敬)

大鏡

さては古今の歌二十巻をみなうかべさせ給ふを御学問にはせさせ給へ。

その次には古今集二十巻の歌を全部暗唱なさるのを、御学問になさいませ。(尊敬)

枕草子

やがて山崎にて出家せしめ給ひて

(道真公は)そのまま山崎で出家なさって(尊敬)

大鏡

たし・まほし

助動詞基本
希望〜たい

接続「たし」は連用形、「まほし」は未然形

活用たし:(たく)/たから・たく/たかり・たし・たき/たかる・たけれ・〇 まほし:(まほしく)/まほしから・まほしく/まほしかり・まほし・まほしき/まほしかる・まほしけれ・〇

どちらも活用は形容詞型。自分の希望(〜たい)を表す。「まほし」は平安時代に多く、「たし」は鎌倉時代以降に多い。
「たし」は連用形、「まほし」は未然形に付くので、「見たし」「見まほし」と形で区別できる。
「あらまほし」は、「あってほしい」から「理想的だ」の意味になる。
連用形「たく・まほしく」はウ音便「たう・まほしう」になることがある。終助詞の「ばや」「なむ」「もがな」(願望)とは別の語。

家にありたき木は、松・桜。

家に(植えて)おきたい木は、松と桜。(希望)

徒然草

常に聞きたきは、琵琶、和琴。

いつも聞きたいのは、琵琶と和琴。(希望)

徒然草

悪所に落ちては死にたからず。

難所に落ちては死にたくない。(希望)

平家物語

紫のゆかりを見て、つづきの見まほしくおぼゆれど、

(源氏物語の)若紫の巻を見て、続きが見たく思われるけれど、(希望)

更級日記

もの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れ侍り。

何か言いたくなると、穴を掘っては言い入れます。(希望)

大鏡

少しのことにも先達はあらまほしきことなり。

ちょっとしたことにも、先達はいてほしいものだ。(希望)

徒然草

なり・たり(断定)

助動詞基本
断定〜だ・〜である
存在〜にある・〜にいる(「なり」のみ)

接続「なり」は体言・連体形、「たり」は体言

活用【なり】なら・に/なり・なり・なる・なれ・(なれ) 【たり】たら・と/たり・たり・たる・たれ・たれ

どちらも形容動詞型に活用する。「なり」は和文全般、「たり」は軍記物語など漢文訓読の影響が強い文章に多い。
断定:「〜だ・〜である」。存在:場所を表す体言に付いて「〜にある・〜にいる」(「なり」のみ。「春日なる三笠の山」)。
連用形「に」は「にあり」「にて」「にや」「にこそ」の形で出る。完了の「ぬ」の連用形「に」(連用形に付く)や、副詞・形容動詞の語尾「に」と見分ける。
伝聞・推定の「なり」は終止形に付く。連体形に付く断定の「なり」は「〜のだ」と訳せる(「男もすなる日記を、女もしてみむとてするなり」の最後の「なり」は断定)。
「茫々たり」のように状態を表す語に付く「たり」は、助動詞ではなく形容動詞(タリ活用)の活用語尾。

おのが身はこの国の人にもあらず、月の都の人なり。

私の身はこの国(人間の世界)の人ではない、月の都の人である。(断定)

竹取物語

心といふもののなきにやあらむ。

心というものがないのであろうか。(断定・連用形「に」)

徒然草

男、異心(ことごころ)ありてかかるにやあらむと思ひ疑ひて

男は、(女に)ほかに心があってこうなのだろうかと疑って(断定・連用形「に」)

伊勢物語

天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも

大空をはるかに仰ぐと、春日にある三笠の山に出ていた月だなあ。(存在)

古今集

五条なる家たづねておはしたり。

五条にある家を訪ねておいでになった。(存在)

源氏物語(夕顔)

忠盛、備前の守たりし時、

忠盛が、備前の守であった時、(断定)

平家物語

諸国の受領たりしかども、

諸国の受領であったけれども、(断定)

平家物語(祇園精舎)

ごとし

助動詞基本
比況〜ようだ
例示〜など・〜のような

接続体言・活用語の連体形、助詞「が」「の」

活用(ごとく)・ごとく・ごとし・ごとき・〇・〇

活用は形容詞型(ク活用に近い形で、未然形・已然形・命令形はほとんど使わない)。
「〜のごとし」「〜がごとし」の形で、「〜のようだ」と比べて例える(比況)。連用形「ごとく」は用言に、連体形「ごとき」は体言に続く。
「〜ごとき」で「〜のような・〜など」と、同類の物を例にあげる使い方もある(例示)。

ただ春の夜の夢のごとし。

まるで春の夜の夢のようだ。(比況)

平家物語

あをによし奈良の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり

奈良の都は、咲く花が美しく照り映えるように、今が盛りである。(比況)

万葉集

和歌・管絃・往生要集ごときの抄物を入れたり。

和歌・音楽(の書物)や、往生要集のような書物の抜き書きを入れている。(例示)

方丈記

ゆ・らゆ

助動詞(上代)
受身〜れる
可能〜できる
自発自然と〜れる

接続「ゆ」は四段・ナ変・ラ変の未然形、「らゆ」はそれ以外の未然形

活用ゆ:え・え・ゆ・ゆる・ゆれ・〇/らゆ:らえ・らえ・らゆ・らゆる・らゆれ・〇

奈良時代(上代)に使われた助動詞で、のちの「る・らる」にあたる。
「見ゆ」「聞こゆ」「覚ゆ」は、「見る」「聞く」などの未然形に「ゆ」が付いてできた語で、自発・受身の意味が残っている。
可能の「ゆ・らゆ」は、「忘らえぬ」「寝らえぬ」のように打消と一緒に出ることが多い。
活用はどちらも下二段型。尊敬の意味はない。「らゆ」は「寝らえぬ」のように「寝(ぬ)」に付いた例しか見られない。

か行けば人にいと厭はえ かく行けば人に憎まえ

あちらへ行けば人にいやがられ、こちらへ行けば人に憎まれ(受身)

万葉集

妹が恋しく忘らえぬかも

妻が恋しくて忘れられないことよ。(可能)

万葉集

独り居て寝の寝らえぬに聞けば苦しも

ひとりでいて寝られないときに(その声を)聞くと苦しい。(可能)

万葉集

栗食めばまして偲はゆ

栗を食べるといっそう(子どもたちが)しのばれる。(自発)

万葉集

す・ふ(上代)

助動詞(上代)
尊敬(す)〜なさる
反復・継続(ふ)何度も〜する・〜し続ける

接続どちらも未然形

上代の「す」は、使役の「す」とは別で、軽い尊敬・親しみを表す。「名告らさね」の「さ」は、この「す」の未然形(終助詞「ね」は相手への願望)。
「ふ」は動詞に付いて、動作の繰り返しや続くことを表す(散る→散らふ、語る→語らふ、住む→住まふ)。

この丘に菜摘ます子 家聞かな 名告らさね

この丘で菜を摘んでおられる娘さんよ、家を聞きたい、名前をおっしゃってください。(尊敬)

万葉集

もみぢ葉の散らふ山べゆ漕ぐ舟のにほひにめでて出でて来にけり

もみじ葉が散り続ける山辺を通って漕ぐ舟の色の美しさに引かれて、(私は)やって来たことよ。(反復・継続)

万葉集

助動詞の音便

助動詞
ウ音便べく→べう たく→たう まほしく→まほしう まじく→まじう
イ音便べき→べい まじき→まじい
撥音便(ん)なる→なん ざる→ざん べかる→べかん たる→たん
撥音の無表記なんめり→なめり ざんなり→ざなり べかんめれ→べかめれ

形容詞型の助動詞(べし・まじ・たし・まほし)は、連用形がウ音便、連体形がイ音便になることがある。
ラ変型の連体形(なる・ざる・べかる・たる)の下に「めり」「なり」が付くと撥音便(ん)になり、その「ん」を書かないことが多い。
「なめり」=なるめり、「ざなり」=ざるなり、「たなれ」=たるなれ、「べかめれ」=べかるめれ、のように元の形に戻して考える。

さては、汝(なんぢ)に逢ふては名のるまじいぞ。

それでは、お前に向かっては名乗るまいぞ。(イ音便)

平家物語

言ひ返すべうもあらず、あさまし。

言い返すこともできず、あきれたことだ。(ウ音便)

堤中納言物語

かぐや姫を見まほしうて物も食はず思ひつつ、

かぐや姫を見たくて、物も食べずに思い続け、(ウ音便)

竹取物語

君をも見まいらせたう候へども、

君をもお見申し上げたく存じますが、(ウ音便)

平家物語

海賊はよる夜あるきせざなりと聞きて、

海賊は夜は行動しないそうだと聞いて、(ざるなり→ざんなり→ざなり)

土佐日記

この寺にありし源氏の君こそおはしたなれ

この寺にいらっしゃった源氏の君がおいでになっているそうだね。(たるなれ→たんなれ→たなれ)

源氏物語(若紫)

女は髪のめでたからんこそ、人の目立つべかめれ。

女は髪の美しいようなのが、人の目をひきつけるようである。(べかるめれ→べかんめれ→べかめれ)

徒然草

少しおぼえたるところあれば、「子なめり」と見たまふ。

少し似ているところがあるので、「(彼女の)子であるようだ」と御覧になる。(なるめり→なんめり→なめり)

源氏物語(若紫)

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格助詞

格助詞は、体言(や体言の代わりをする連体形)に付いて、下の語との関係(主語なのか、対象なのか など)を示します。現代語と違う用法だけを覚えればよく、特に「の・が」の主格と同格、「にて」「より」「して」が大切です。「に」「を」「と」は用法が多いので、意味の分類を一度確認しておきましょう。

の・が

格助詞基本本文では「同格・比喩」だけ標準で表示
主格〜が
連体修飾格〜の
同格〜で
体言の代用〜のもの・〜のこと
比喩〜のように(「の」のみ)

接続体言・連体形

「の」と「が」は、古文ではほぼ同じ働きをする。連体修飾格(〜の)のほか、主語を示す主格(〜が)としてよく使う。
同格は「体言+の+連体形(+が・の)」の形で、前後が同じ人・物を指す。「の」を「で」に置き換え、連体形のあとに前の体言を補って訳す(清げなる僧の、…着たるが来て=清げな僧で、…着ている僧が来て)。
同じ「体言+の…連体形」の形でも、同格ではなく主格のことがある(人たちの、…給ひしを見やりて=人たちが…なさったのを)。形だけでなく意味で決める。
体言の代用は、あとに「もの」「こと」を補える形(扇のには=扇のものには)。

僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを

僧が、「もしもし。お起きください。」と言うのを(主格)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

雀の子を犬君が逃がしつる

雀の子を、犬君が逃がしてしまったの。(主格)

源氏物語(若紫)

わが宿のすだれ動かし秋の風吹く

私の家の簾を動かして秋の風が吹く。(連体修飾格)

万葉集

いと清げなる僧の、黄なる地の袈裟着たるが来て

たいそうさっぱりした感じの僧で、黄色い地の袈裟を着ている僧が来て(同格。あとの「が」は主格)

更級日記

いかなれば四条大納言のはめでたく、兼久がはわろかるべきぞ

どうして四条大納言のものはすばらしく、兼久のものは劣っているはずがあろうか。(体言の代用)

宇治拾遺物語

春日野の雪間をわけて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも

春日野の雪間をかき分けて生え出る草のように、ほんの少し見えたあなたよ。(比喩)

古今集

を

格助詞本文では標準で非表示
動作の対象〜を
動作の起点〜を(出て)・〜から
経過する場所・時〜を(通って)・〜の間

接続体言・連体形(体言の代わり)

格助詞の「を」は、あとの動詞の目的語になる(対象)ことが最も多い。
連体形に付いていても、「〜のを」「〜ことを」と体言の代わりをして、あとの動詞の対象になっているなら格助詞。「言ひけるを、この児、聞きけり」は「言っていたのを聞いた」で格助詞、「〜けれども」「〜ので」と前後をつなぐなら接続助詞(「が・に・を」の項)。
文中で語調を整えるだけの間投助詞「を」もある。

いざ、かいもちひせむと言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり

さあ、ぼたもちを作ろうと言っていたのを、この児は期待して聞いていた。(対象)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

翁、竹を取ること久しくなりぬ

翁が竹を取ることは長い間になった。(対象)

竹取物語

さびしさに宿を立ちいでてながむれば

寂しさに家を出てあたりを眺めると、(起点)

後拾遺集

伊勢・尾張の間の海づらを行くに

伊勢と尾張の間の海辺を通って行くと、(経過する場所)

伊勢物語(第七段)

にて

格助詞基本本文では標準で非表示
場所・時〜で
手段・材料〜で
原因・理由〜のために
資格・状態〜として・〜で

接続体言・連体形

現代語の「で」にあたる。体言に付く「にて」は格助詞(場所・手段・原因・資格・状態)。
断定の助動詞「なり」の連用形「に」+接続助詞「て」(〜であって)とは、「〜で」「〜として」と訳して前後が通るかどうか、「に」を「で」に置き換えられるかどうかで見分ける。
「寝たるよしにて」のような状態を表す「にて」も、格助詞として扱う。

潮海のほとりにてあざれ合へり

海のほとりで、ふざけ合っている。(場所)

土佐日記

女のはける足駄にて作れる笛には秋の鹿必ず寄る

女のはいた足駄で作った笛には、秋の鹿が必ず寄ってくる。(手段・材料)

徒然草

われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ

私が毎朝毎晩見ている竹の中にいらっしゃることでわかった。(原因・理由)

竹取物語

片方に寄りて、寝たるよしにて、出で来るを待ちけるに

片隅に寄って、寝たふりをして、できあがるのを待っていると(状態)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

より

格助詞基本本文では「即時」だけ標準で表示
起点〜から
経過する場所〜を通って
比較〜より
手段〜で
即時〜するとすぐに

接続体言・連体形

五つの意味を区別する。「から」と訳せば起点、「を通って」なら経過、「〜と比べて」なら比較、「〜で」なら手段、「〜するとすぐ」なら即時。
手段の「より」は「徒歩より」「馬より」など乗り物・歩き方を表す語に付き、即時の「より」は連体形・終止形の動詞(名を聞くより)に付く。

関白殿、黒戸より出でさせたまふ

関白殿が、黒戸からお出ましになる。(起点)

枕草子

秋風にたなびく雲の絶え間よりもれ出づる月の影のさやけさ

秋風でたなびく雲の切れ間を通ってもれ出る月の光の、なんと明るく澄んでいることか。(経過)

新古今集(百人一首)

聞きしよりもまして、いふかひなくぞこぼれ破れたる

聞いていたよりもずっと、どうしようもないほどにこわれ破れている。(比較)

土佐日記

ただひとり、徒歩よりまうでけり

たった一人で、徒歩で参詣した。(手段)

徒然草(第五十二段)

名を聞くより、やがて面影は推し測らるる心地するを

人の名を聞くとすぐに、顔つきが自然と推測されるような気がするが、(即時)

徒然草(第七十一段)

して

格助詞本文では標準で非表示
手段〜で
動作を共にする相手・人数〜と一緒に・〜で
使役の相手〜に命じて

接続体言

格助詞の「して」は体言に付く。連用形に付く「して」(絶えずして など)は接続助詞なので区別する。
人を表す語に付いて「〜に命じて」なら使役の相手、人数を表す語に付いて「〜といっしょに」なら共同。使役の「して」のあとには「召す」「言ふ」など、命じる内容を表す動詞が続く。

そこなりける岩におよびの血して書きつけける

そこにあった岩に、指の血で書きつけた。(手段)

伊勢物語(第二十四段)

もとより友とする人、一人二人して行きけり

以前から友とする人、一、二人といっしょに行った。(共同)

伊勢物語(第九段)

人して惟光召させて、待たせたまひけるほど

人に命じて惟光をお呼ばせになって、お待ちになっているうちに(使役の相手)

源氏物語(夕顔)

へ

格助詞本文では標準で非表示
動作の方向〜へ・〜に向かって

接続体言

現代語の「へ」と同じで、動作・作用の向かう方向を示す。帰着点を表して「に」に近い使い方をすることもある。

人も手触れぬに、ふと上ざまへ上がりたるも、いみじうをかし

人も手を触れないのに、ふいに上のほうへ上がったのも、たいへんおもしろい。(方向)

枕草子(九月ばかり)

から

格助詞本文では標準で非表示
動作の起点〜から

接続体言

起点を表す。同じ意味の「より」に比べると用例が少ない。経過点・原因・手段を表す用法もあるが、高校古文では起点を押さえておけばよい。

去年から山籠りして侍るなり

去年から山にこもって(仏道修行を)しております。(起点)

蜻蛉日記

と

格助詞本文では標準で非表示
相手〜と(一緒に)
引用〜と(言う・思う)
比喩〜のように
変化の結果〜と・〜に(なる)
並列〜と
比較の基準〜と比べて

接続体言・引用句

現代語とほぼ同じ。引用の「と」は会話・心の中の言葉のあとに付き、「と言ふ」「と思ふ」「とて」の形で出ることが多い。
終止形に付いて「たとえ〜ても」と訳せる「と」は、接続助詞(「と・とも」の項)。

なんぢと一所で死なんと思ふ

お前といっしょの所で死のうと思う。(相手)

平家物語

いま一度起こせかしと、思ひ寝に聞けば

もう一度起こしてくれよ、と思いながら寝て聞いていると(引用)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

泣く涙雨と降らなむ

私の泣く涙よ、雨のように降ってくれ。(比喩)

古今集

あるいは大家滅びて小家となる

大きな家がなくなって、小さな家となる。(変化の結果)

方丈記

世の中にある人とすみかと、またかくのごとし

世の中にいる人と住まいとは、またこのようなものだ。(並列)

方丈記

かたちなどは、かの、昔の夕顔と劣らじや

顔だちなどは、あの昔の夕顔に比べて劣るまいよ。(比較の基準)

源氏物語(玉鬘)

に

格助詞本文では標準で非表示
場所・時〜に・〜で
帰着点・対象〜に・〜に対して
変化の結果〜に(なる)
目的〜のために・〜しに
原因・理由〜のために・〜によって
受身・使役の相手〜に(〜られる/〜させる)
比較の基準〜と比べて・〜より
添加〜の上に・〜に加えて

接続体言・連体形

用法が多いので、まず「場所・時」か「帰着点・対象」かを考え、「〜になる」なら変化、「〜しに」なら目的、「〜のために」なら原因、受身・使役の助動詞のそばなら相手、というふうに前後から決める。
格助詞「に」のほか、接続助詞、断定の助動詞「なり」の連用形、完了の助動詞「ぬ」の連用形、形容動詞の活用語尾、副詞の一部にも「に」がある。識別は『古典文法の識別』で確認する。

十二日、山崎にとまれり

十二日、山崎にとまっている。(場所)

土佐日記

春の日に雪仏を作り

春の日に雪で仏を作り、(時)

徒然草(第百六十六段)

行き行きて駿河の国にいたりぬ

どんどん行って駿河の国に着いた。(帰着点)

伊勢物語(第九段)

それに書きつけて、あの御方に奉る

それに書きつけて、あのお方にさしあげる。(対象)

蜻蛉日記

女の鬼になりたるを率て上りたり

女が鬼になったのを連れて上京した。(変化の結果)

徒然草(第五十段)

東の方に住むべき国求めにとて行きけり

東国のほうに住むのによい国を求めに行こうと思って出かけた。(目的)

伊勢物語(第九段)

近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とや言ふ

近くの火事などのために逃げる人は、「ちょっと待って」などと言うだろうか。(原因)

徒然草(第五十九段)

国の守にからめられにけり

国の守に捕らえられてしまった。(受身の相手)

伊勢物語(第十二段)

見苦しとて人に書かするはうるさし

字が下手だと言って人に書かせるのは、気のきかないことだ。(使役の相手)

徒然草(第三十五段)

昼の明かさにも過ぎて光りわたり

昼の明るさにもまさって、一面に光り輝き、(比較の基準)

竹取物語

削り氷にあまづら入れて

削った氷の上にあまづらをかけて、(添加)

枕草子

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接続助詞

接続助詞は、活用語に付いて、上の文節を下に続けます。「仮定(もし〜なら)」か「確定(〜ので・〜と)」か、「順接」か「逆接」かを見分けるのがポイントです。入試では「ば」「とも」「ど・ども」「で」「ながら」「ものの・ものから・ものを・ものゆゑ」がよく問われます。

ば

接続助詞基本
順接仮定(未然形+ば)もし〜なら
順接確定・原因理由(已然形+ば)〜ので・〜から
順接確定・偶然(已然形+ば)〜と・〜ところ
順接確定・恒常(已然形+ば)〜といつも

接続未然形(仮定)・已然形(確定)

接続(直前の活用形)が決め手。未然形+ば=仮定(もし〜ならば)、已然形+ば=確定(〜ので・〜と・〜といつも)。
現代語の「〜ば」は仮定の意味だが、古文の已然形+「ば」は仮定ではない。仮定で訳さないこと。
確定の三つは文脈で決める。前が原因・後が結果なら原因・理由、前の動作のあとである事実に気づくなら偶然(〜すると、…だった)、同じことがいつも起こるなら恒時(〜するといつも)。

悪人のまねとて人を殺さば、悪人なり

悪人のまねだといって人を殺すならば、それは悪人である。(仮定)

徒然草(第八十五段)

声のしければ、あな、わびしと思ひて

声がしたので、ああ困ったと思って(確定・原因理由)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

思ひ寝に聞けば

思いながら寝て聞いていると(確定・偶然)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ

瓜を食べると(いつも)子どもたちのことが思われる。栗を食べるとなおさら慕わしい。(確定・恒時)

万葉集(山上憶良)

と・とも

接続助詞基本
逆接仮定たとえ〜ても

接続終止形(形容詞型には連用形)

終止形に付く(形容詞型の活用語には連用形に付く)。「たとひ〜とも」「よしや〜とも」の形で呼応することが多い。
引用の格助詞「と」とは、直前が終止形で「たとえ〜ても」と訳せるかどうかで見分ける。

用ありて行きたりとも、その事果てなば、とく帰るべし

用事があって行ったとしても、その用が済んだら、すぐ帰るのがよい。

徒然草(第百七十段)

兼平一人候ふとも、余の武者千騎と思し召せ

たとえ兼平一人がおりましても、ほかの武者千騎とお思いください。

平家物語(木曽最期)

風ふくと枝をはなれて落つまじく

風が吹いても、枝を離れて落ちないように、

山家集

ど・ども

接続助詞基本
逆接確定〜けれども・〜が
逆接恒時〜ても(そのたびに・いつも)

接続已然形

已然形に付く。現代語の「けれども」にあたる。
「ど」と「ども」に意味の違いはない。
事柄が繰り返される場合を「逆接恒時」として区別する説明もあるが(その子、孫までは、はふれにたれど…)、訳は逆接確定と同じ「〜けれども」で通じる。

うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも

うれしいとは思うけれども、一度ですぐに返事をするのも

宇治拾遺物語(児のそら寝)

人ども来とぶらひけれど、さわがず

人々が来て見舞ったけれども、騒がない。

宇治拾遺物語(絵仏師良秀)

男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ

男も女もお互いに恥ずかしがっていたけれども、男はこの女を妻にしたいと思う。

伊勢物語(第二十三段)

その子、孫までは、はふれにたれど、なほなまめかし

その子、孫まではおちぶれてしまったけれども、やはり品がある。(逆接恒時とされる例)

徒然草(第一段)

て・して

接続助詞
単純接続(動作の連続・並列)〜て・〜して
状態〜の状態で・〜て
順接確定〜ので
逆接確定〜のに

接続連用形

連用形に付く。「て」自体は前後をつなぐだけで、意味は文脈から補って訳す。単純接続が圧倒的に多く、順接・逆接は前後の意味から判断する。
「して」は、連用形(絶えずして、など)に付けば接続助詞、体言(人して、など)に付けば格助詞。
未然形に付く打消の「で」は別項。

片方に寄りて、寝たるよしにて

片隅に寄って、寝たふりをして(単純接続)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

行き行きて、駿河の国にいたりぬ

どんどん行って、駿河の国に着いた。(単純接続)

伊勢物語(第九段)

行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず

流れていく川の流れは絶えることがなく、しかももとの水ではない。(単純接続)

方丈記

で

接続助詞基本
打消接続〜ないで・〜ずに

接続未然形

未然形に付く。打消の助動詞「ず」の連用形「ず」+「て」が一語になったもので、「〜ないで」「〜ずに」と訳す。「ずして」「ずに」に置き換えられる。
断定「なり」の連用形「に」+「て」(にて)や、格助詞「にて」とは別。

狩りはねんごろにもせで、酒をのみ飲みつつ、やまとうたにかかれりけり

狩りは熱心にもしないで、ひたすら酒を飲みつつ、和歌(を詠むこと)に熱中していた。

伊勢物語(第八十二段)

ものも見で帰らむとし給へど

何も見ないで帰ろうとなさるけれど、

源氏物語(車争ひ)

が・に・を

接続助詞基本本文では標準で非表示
順接確定〜ので
逆接確定〜のに・〜けれども
単純接続〜と・〜ところ・〜が(前置き)
添加〜うえに・〜ところへさらに

接続連体形

連体形に付く「が・に・を」には、逆接(〜けれども)・順接(〜ので)・単純接続(〜と、〜ところ)の三通りがあり、形だけでは決まらない。前後の意味で判断する。
まず「〜と、〜ところ」で訳して通るかを確かめる。通らなければ、前後の関係から順接か逆接かを決める。
「〜すると、…だった」という偶然の発見を表す「に」は、順接確定(偶然)とすることもある(御覧ずるに、珍かなる児の御容貌なり)。
前の内容に後の内容が重なる「に」は添加(悲しきに、夕波千鳥あはれに鳴きわたり=悲しいところへさらに千鳥が鳴く)。
連体形が「〜のを」「〜ことを」と体言の代わりをして、あとの動詞の対象になるときは格助詞「を」。「僧の、…と言ふを、うれしとは思へども」は「言うのをうれしいと思う」で格助詞、「…と言ふを、われもわれもと出でたつ」は「言ったところ」の単純接続。
体言(名詞)に付く「が・に・を」は格助詞。

いまは河を渡すべきで候ふが、をりふし五月雨のころで

今は河を渡すのがよろしいのですが、ちょうど五月雨のころで、(逆接・が)

平家物語

十月つごもりなるに、紅葉散らで盛りなり

十月の末であるのに、紅葉は散らずに盛りである。(逆接・に)

更級日記

八重桜は奈良の都にのみありけるを、このごろぞ世に多くなり侍るなる

八重桜は奈良の都にだけあったのに、このごろは世間に多くなっているようです。(逆接・を)

徒然草(第百三十九段)

涙のこぼるるに、目も見えず、物もいはれず

涙がこぼれるので、目も見えず、ものも言えない。(順接・に)

伊勢物語(第六十二段)

かくのみ思ひくんじたるを、心も慰めむと、心苦しがりて、母、物語など求めて見せ給ふ

こんなふうにふさぎこんでばかりいるので、気持ちを慰めてやろうと、気の毒に思って、母が物語などを探して見せてくださる。(順接・を)

更級日記

急ぎ参らせて御覧ずるに、珍かなる児の御容貌なり

急いで参内させてご覧になると、またとない皇子のお顔立ちである。(偶然の発見。順接確定とすることもある)

源氏物語(桐壺)

この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、

この児は、きっと起こしてくれるだろうと、待っていると、(単純接続・に)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

源大納言重光卿の御娘の腹に、女君二人、男君一人おはせしが、この君たちみな大人び給ひて

源大納言重光卿の御娘がお産みになった方に、女君二人と男君一人がいらっしゃったが、この君たちはみな成人なさって、(単純接続・が)

大鏡

「ほととぎすの声尋ねにいかばや」と言ふを、われもわれもと出でたつ

「ほととぎすの声を探しに行きたい」と言ったところ、われもわれもと出かける。(単純接続・を)

枕草子

さらぬだにも旅の空は悲しきに、夕波千鳥あはれに鳴きわたり、

ただでさえ旅の空は悲しいところへ、夕波千鳥が哀れに鳴き渡り、(添加・に)

住吉物語

つつ

接続助詞基本
反復・継続〜しては・〜し続けて
同時〜ながら

接続連用形

連用形に付く。同じ動作のくり返し・継続(〜しては)と、二つの動作の同時並行(〜ながら)がある。文脈で見分け、動作が何度も重なる内容なら反復、同じ人が二つのことを同時にしているなら並行。
和歌の末尾などの「つつ」(つつ止め)は、言いさして余情・詠嘆の気持ちを込める言い方になる。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり

野山に入って竹を取っては、いろいろなことに使っていた。(反復)

竹取物語

女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでなむありける

女はこの男を(夫に)と思い続けて、親が(ほかの男と)結婚させようとするけれども、聞き入れないでいた。(継続)

伊勢物語(第二十三段)

尼君、髪をかき撫でつつ

尼君は、髪をなでながら、(並行)

源氏物語(若紫)

ながら

接続助詞基本
同時(並行)〜ながら
逆接確定〜のに・〜けれども
状態〜のままで

接続連用形(体言・形容詞の語幹にも付く)

動詞の連用形に付いて、同じ人の二つの動作が同時に進むなら並行。前後が食い違うなら逆接。名詞に付いて、そのままの状態が続くことを表すなら状態(「〜のまま」)。
「二所ながら」(お二人とも)、「六つながら」(六つとも)のように、数を表す体言に付くと全部の意味になる。

膝もとに置きつつ、食ひながら文をも読みけり

膝もとに置いては、食べながら経文を読んでいた。(同時)

徒然草(第六十段)

身はいやしながら、母なむ宮なりける

身分は低いけれども、母は内親王であった。(逆接)

伊勢物語(第八十四段)

ここに侍りながら、御とぶらひにもまうでざりける

ここにおりながら、お見舞いにも参りませんでした。(逆接)

源氏物語(若紫)

雪ながら山もと霞む夕べかな

雪を残したままで、山のふもとは霞んでいる夕暮れだなあ。(状態)

水無瀬三吟百韻

ものの・ものから・ものを・ものゆゑ

接続助詞基本
逆接確定〜けれども・〜のに

接続連体形

四つとも連体形に付き、逆接「〜けれども・〜のに」が基本。「ものを」「ものから」「ものゆゑ」は順接「〜ので」になることもあるが、「ものの」は逆接だけ。
文末の「ものを」は、言い残した逆接の気持ちを込める終助詞(〜のになあ)。『終助詞』の項を見る。

君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経る

あなたが来ようと言った夜が来るたびに何事もなく過ぎてしまうので、あてにはしないものの、恋しく思いながら過ごしています。(ものの)

伊勢物語(第二十三段)

春の野に若菜摘まむと来しものを散り交ふ花に道は惑ひぬ

春の野に若菜を摘もうとして来たのに、散り乱れる花で道がわからなくなってしまった。(ものを)

古今集

月は有明にて光をさまれるものから、富士の峰かすかに見えて

月は有明の月で光は弱まっているものの、富士の峰がかすかに見えて、(ものから)

奥の細道(旅立ち)

誰が秋にあらぬものゆゑをみなへしなぞ色に出でてまだき移ろふ

誰の秋でもないのに、おみなえしよ、どうして色に出てもう色あせるのか。(ものゆゑ)

古今集

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副助詞・係助詞

係助詞「ぞ・なむ・や・か・こそ」は、文末の形を変える「係り結びの法則」を作ります。「は・も」も係助詞で、「もぞ・もこそ」は特別な意味になります。副助詞では「だに・すら・さへ」の使い分けが大切です。

係り結び(ぞ・なむ・や・か・こそ)

係助詞基本
ぞ・なむ強意。結びは連体形。訳さなくてよい
や・か疑問「〜か」・反語「〜か、いや〜ない」。結びは連体形
こそ強意。結びは已然形。訳さなくてよい
結びの省略結びの語(ある・言ふ・なる など)が省かれる。補って訳す
結びの流れ(消滅)結びの語がなく、文が続いて終止形・連用形などになる
こそ〜已然形、(逆接)文が切れずに続くと「〜けれども」

接続種々の語

文中に係助詞があると、文末(結び)は終止形ではなく、ぞ・なむ・や・か→連体形、こそ→已然形になる。これが係り結びの法則。係助詞「は」「も」は結びの形を変えない。
疑問か反語かは文脈で決める。「やは」「かは」の形は反語になることが多い。
結びの省略は「〜にや(あらむ)」「〜とぞ(言ふ)」「〜となむ(言ふ)」などに多く、省かれた語を補って読む。係り結びの形が崩れて結びの語がなくなる「結びの流れ」は、「なむ」のあとに文が続くときなどに起こる。
「こそ〜已然形、」のあとに文が続く場合は、「〜けれども」と逆接に訳すことがある(逆接強調)。

水はその山に、三ところぞ流れたる

水はその山に、三か所流れている。(ぞ→連体形)

更級日記

身はいやしながら、母なむ宮なりける

身分は低いけれども、母は内親王であった。(なむ→連体形)

伊勢物語(第八十四段)

いづれの山か天に近き

どの山が天に近いのか。(か・疑問→連体形)

竹取物語

よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ

身分の高い教養ある人は、知っていることだからと、そうむやみに物知り顔で言うだろうか、いや言わない。(やは・反語→連体形)

徒然草(第七十九段)

七夕まつるこそなまめかしけれ

七夕をまつることは優雅なことだ。(こそ→已然形)

徒然草(第十九段)

「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて

「これが都鳥です。」と言うのを聞いて(結びの「なる」が省略)

伊勢物語(第九段)

年ごろよくくらべつる人々なむ、別れがたく思ひて、日しきりにとかくしつつ、ののしるうちに夜ふけぬ

長年親しくつきあってきた人々は、別れがたく思って、一日中あれこれしながら大騒ぎするうちに夜がふけた。(結びの流れ)

土佐日記

中垣こそあれ、ひとつ家のやうなれば、望みて預かれるなり

中垣はあるけれど、一軒の家のようなので、(先方が)望んで預かっているのである。(こそ〜已然形の逆接)

土佐日記

もぞ・もこそ

係助詞基本
危惧〜すると困る・〜しては大変だ

接続種々の語

「も」+「ぞ」「こそ」で、そうなっては困るという心配(危惧)を表す。結びは「ぞ」なら連体形、「こそ」なら已然形。
単なる強意の「ぞ・こそ」と違い、悪い事態を心配する文脈になる。「〜すると困る」「〜しては大変だ」と訳す。

待ちけるかともぞ思ふ

待っていたのかと(僧たちが)思うと困る

宇治拾遺物語(児のそら寝)

あやしうも、あまりやつしけるかな。聞きもこそすれ

変なことに、ひどく地味にしすぎたものだ。人に聞かれたら困る。

源氏物語(若紫)

雨もぞ降る。

雨が降ると困る。

(例文)

は・も

係助詞本文では標準で非表示
は区別(とりたて)・強調
も(同趣の一つ)〜も(同じようなものの一つとして)
も(並列・列挙)〜も…も
も(強意)〜も(訳さなくてよい)

接続種々の語

現代語と同じ。結びの形は変えない(終止形のまま)。

秋は来ぬもみぢは宿に降りしきぬ

秋はやって来た。紅葉は家のまわりに散り敷いた。(とりたて・区別)

古今集

才ありとて頼むべからず。孔子も時にあはず。

学才があるといっても頼みにはできない。孔子も時勢にめぐりあわなかった。(同趣の一つ)

徒然草(第二百十一段)

見渡せば花ももみぢもなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮

見渡すと、花も紅葉もないことよ。浦の苫屋の秋の夕暮れは。(並列)

新古今集

限りなく遠くも来にけるかな

限りなく遠くまでも来てしまったものだなあ。(強意)

伊勢物語(第九段)

だに・すら・さへ

副助詞基本
だに(最小限の限定)せめて〜だけでも(下に願望・命令・意志)
だに(類推)〜さえ(まして他は)
すら類推「〜さえ」
さへ添加「そのうえ〜までも」

接続種々の語

「だに」は、下に願望・命令・意志の表現があれば「せめて〜だけでも」(最小限の限定)、打消などが続けば「〜さえ」(類推)。
「すら」は類推で、「だに」の類推とほぼ同じ。「さへ」は添加で、現代語の「さえ」(類推)とは違い、「そのうえ〜までも」と加わる意味になる。入試頻出。

光やあると見るに、蛍ばかりの光だになし

光があるかと見ると、蛍ほどの光さえない。(類推)

竹取物語

みな人は花の衣になりぬなり苔の袂よかわきだにせよ

人々はみな花の衣(喪服)になったようだ。苔の袂(僧衣)よ、せめて乾くことだけでもしてくれ。(最小限の限定)

古今集

聖などすら前の世のこと夢に見るは、いとかたかなるを

聖などでさえ前世のことを夢に見るのは、たいそう難しいというのに、(類推)

更級日記

ある人の毛の穴さへ見ゆるほどなり

そこにいる人の毛穴までも見えるほどである。(添加)

竹取物語

のみ・ばかり・など・まで・し

副助詞本文では標準で非表示
のみ限定「〜だけ」・強意
ばかり限定「〜だけ」・程度「〜ほど・〜くらい」
まで限度・範囲「〜まで」・程度「〜ほどに」
など例示「〜など」・婉曲「〜などする」・引用「〜などと」
し強意(訳さない)

接続種々の語

「し」は「しも」「しぞ」の形で強意。「名にし負はば」の「し」など。

乳児どものみぞさしもなき

赤ん坊だけはそれほどでもない。(限定)

枕草子

とり集めたることは、秋のみぞ多かる

いろいろ重なって趣深いことは、特に秋に多いことだ。(強意)

徒然草(第十九段)

月かげばかりぞ八重葎にもさはらずさし入りたる

月の光だけが、八重葎にもさえぎられずに差し込んでいる。(限定)

源氏物語(桐壺)

人の亡きあとばかり悲しきはなし

人の亡くなったあとほど悲しいものはない。(程度)

徒然草(第三十段)

明くるより暮るるまで東の山ぎはをながめて過ぐす

夜が明けてから暮れるまで、東の山ぎわを眺めて過ごす。(限度・範囲)

更級日記

かしがましきまでぞ鳴く

やかましいほどに鳴く。(程度)

枕草子

源氏物語・枕草子などに言ひ古りにたれど

源氏物語や枕草子などに言い古されているけれど、(例示)

徒然草(第十九段)

行き別るるほど、行くもとまるも皆泣きなどす

別れるとき、行く人も残る人もみな泣いたりする。(婉曲)

更級日記

「まことに、そはしらじを」などのたまふ

「ほんとうに、そんなことは知るまいね」などとおっしゃる。(引用)

枕草子

から衣着つつなれにし妻しあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

唐衣を着なれるように慣れ親しんだ妻がいるので、はるばる来た旅をしみじみと思う。(強意)

伊勢物語(第九段)

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終助詞・間投助詞

終助詞は文末に付いて、禁止・願望・詠嘆などの気持ちを添えます。「な〜そ」「ばや」「なむ」「もがな」「かな」「かし」は、訳し方がそのまま問われます。

な〜そ

終助詞基本
禁止〜しないでくれ・〜するな

接続「な」+連用形(カ変・サ変は未然形)+「そ」

副詞「な」と終助詞「そ」で、間の連用形(カ変・サ変は未然形)をはさんで禁止を表す。「〜しないでくれ」という、やわらかい禁止。
「な」だけで終止形に付くと「〜するな」の強い禁止になる。文末の「な」には、詠嘆の「な」(〜だなあ)もあるので、直前の活用形と文脈で見分ける。

や、な起こしたてまつりそ

これ、お起こし申し上げるな。(な…そ)

宇治拾遺物語(児のそら寝)

物知らぬことなのたまひそ

わけのわからないことをおっしゃるな。(な…そ)

竹取物語

あやまちすな

失敗をするな。(終止形+な)

徒然草(第百九段)

ばや・なむ・てしがな・にしがな

終助詞基本
ばや自己の願望「〜したい」
なむ他者への願望「〜してほしい」
てしがな・にしがな自己の願望「〜したいものだ」

接続「ばや」は未然形、「なむ」は未然形、「てしがな」は連用形

「ばや」「なむ」は未然形に、「てしがな」「にしがな」は連用形に付く。願望の相手で使い分けられ、自分が〜したい=ばや・てしがな・にしがな、他人に〜してほしい=なむ。
「なむ」は、未然形に付けば願望の終助詞、連用形に付けば強意「ぬ」+推量「む」、それ以外に付けば係助詞。ナ変動詞の未然形語尾「な」+「む」にも注意。識別は『古典文法の識別』を見る。

世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ

世の中に物語というものがあるそうだが、どうにかしてそれを見たいと思い続けて、(ばや)

更級日記

いつしか梅咲かなむ、来むとありしを

早く梅が咲いてほしい。(その時には)来ようと言っていたのに、(なむ)

更級日記

いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがな

どうにかして、このかぐや姫を妻にしたい、結婚したいものだ。(てしがな)

竹取物語

いかで、鳥の声もせざらむ山にこもりにしがな

どうにかして、鳥の声もしないような山にこもりたいものだ。(にしがな)

宇津保物語

もが・もがな

終助詞基本
願望〜があればなあ・〜であればなあ

接続体言・形容詞連用形など

体言や形容詞の連用形などに付いて、「〜があればなあ」と願望を表す。願望の「もが」に終助詞「な」が付いた形が「もがな」(上代は「もがも」の形が多い)。

心あらん友もがな

風流を解する友がいればなあ。

徒然草(第百三十七段)

世の中にさらぬ別れのなくもがな

世の中に避けられない別れ(死別)がなければいいのになあ。

伊勢物語(第八十四段)

かな・な・か・や(詠嘆)

終助詞基本
詠嘆〜だなあ・〜ことよ

接続体言・連体形など

「かな」は体言・連体形などに付き、「〜だなあ」と詠嘆を表す。和歌や会話の文末に多い。
「かも」「な」(終止形など)も詠嘆の終助詞。禁止の「な」(終止形に付く)と区別する。

限りなく遠くも来にけるかな

ずいぶん遠くまで来てしまったものだなあ。

伊勢物語(第九段)

花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに

花の色は色あせてしまったことだなあ。むなしく世を過ごし、物思いにふけっているうちに。

古今集

春日なる三笠の山に出でし月かも

春日にある三笠の山に出た月と同じ月だなあ。

古今集

かし

終助詞基本
念押し・強意〜よ・〜ね

接続文末

文末に付いて、相手に念を押して強める(〜よ・〜ね)。訳さなくてよい場合もある。

いま一度起こせかし

もう一度起こしてくれよ。

宇治拾遺物語(児のそら寝)

かかるところに住む人、心に思ひ残すことはあらじかし

こんな所に住む人は、心に思い残すことはあるまいよ。

源氏物語(若紫)

ものを

終助詞
詠嘆(余情)〜のになあ・〜ものを

接続連体形(文末)

文末に付き、言い残した逆接の気持ち(〜のに)を込めて詠嘆する。文中で「〜のに・〜けれども」と下に続くものは接続助詞「ものを」(『接続助詞』の項)。文末で句点のあとに続かない形かどうかで見分ける。

大和魂などは、いみじくおはしましたるものを。

(時平公は)才知などはたいそうすぐれていらっしゃったのになあ。

大鏡(時平)

柱をも割り食ひてんものを。

柱をも割って食べてしまえばよいのになあ。

古本説話集

や・よ・を(間投助詞)

間投助詞
詠嘆〜だなあ・〜よ
呼びかけ〜よ
語調を整える・強意(訳さなくてよい)

接続文中・文末の種々の語

文中や文末に入って、語調を整えたり感動を添えたりする。「や」「よ」は詠嘆と呼びかけ、「を」は詠嘆・強意(訳さなくてよい)。
格助詞・接続助詞の「を」と区別する。あとの動詞の対象にも逆接にもならず、語調を整えているだけなら間投助詞。

をかしの御髪や

かわいらしいお髪だこと。(詠嘆)

源氏物語(若紫)

あが君や。いづ方にか、おはしましぬる

わが君よ。どちらへいらっしゃったのですか。(呼びかけ)

源氏物語(蜻蛉)

この子が文の書きやうのはかなさよ

この子の手紙の書き方の、なんと幼いことよ。(詠嘆)

平家物語

少納言よ、香炉峰の雪いかならむ

少納言よ、香炉峰の雪はどんなだろう。(呼びかけ)

枕草子

いかでなほ少しひがごと見つけてをやまむ

どうにかして、やはり少しでも誤りを見つけて(それで)やめにしよう。(強意)

枕草子

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敬語

敬語は三種類。動作をする人を高める「尊敬語」、動作を受ける人を高める「謙譲語」、聞き手(読み手)に丁寧に言う「丁寧語」です。「誰から誰への敬意か」(敬意の方向)がいちばんよく問われます。地の文なら作者から、会話文なら話し手からの敬意です。後半に、補助動詞・たまふの見分け・二つの働きをもつ敬語・最高敬語・二方面への敬語など、入試で問われる細かい項目をまとめました。

主な尊敬語

敬語基本
おはす・おはします・います・ます(坐す)いらっしゃる・おいでになる(あり・居り・行く・来)
のたまふ・のたまはす・仰す・仰せらるおっしゃる(言ふ)
おぼす・おぼしめす(思す・思し召す)お思いになる(思ふ)
御覧ずご覧になる(見る)
きこす・きこしめすお聞きになる・召し上がる(聞く・食ふ・飲む)
しろしめす・しらしめすお治めになる・お知りになる(治む・知る)
召すお呼びになる・お召しになる・召し上がる(呼ぶ・着る・乗る・食ふ)
大殿籠るお休みになる(寝・寝ぬ)
たまふ(四段)お与えになる(与ふ)/補助動詞「〜なさる・お〜になる」
たまはすお与えになる(与ふ)
あそばすなさる(す)
奉る(尊敬の用法)お召しになる・お乗りになる・召し上がる(着る・乗る・食ふ)
参る(尊敬の用法)召し上がる・なさる(食ふ・飲む・す)

動作をする人(主語)への敬意を表す。主語が省略されていても、尊敬語があれば身分の高い人が主語だと読める。「召す」「奉る」「参る」は謙譲語にもなるので、主語が敬意を向けるべき人かどうかで決める。助動詞「る・らる」「す・さす・しむ」の尊敬の用法も、同じく主語への敬意。

をさなき人は、寝入りたまひにけり。

幼い人は、寝入ってしまわれたよ。(僧から児への敬意)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。

私が毎朝毎晩見ている竹の中にいらっしゃることで、そうとわかった。(翁からかぐや姫への敬意)

竹取物語

入道殿、「かの大納言、いづれの船にか乗らるべき。」とのたまはすれば、

入道殿(道長)が「あの大納言(公任)は、どの船にお乗りになるのだろう。」とおっしゃるので、

大鏡

帝、さうざうしとや思し召しけむ、

帝は、物足りなくお思いになったのであろうか、

大鏡

かぐや姫、かたちの世に似ずめでたきことを、御門きこしめして、

かぐや姫の容姿が世に比べるものがないほど美しいことを、帝がお聞きになって、

竹取物語

かの筑紫にて、九月九日菊の花を御覧じけるついでに、

(大臣が)あの筑紫で、九月九日に菊の花をご覧になった折に、

大鏡

親王、大殿ごもらで明かしたまうてけり。

親王は、おやすみにならずに夜を明かしなさってしまった。

伊勢物語

「右近ぞ見知りたる。呼べ。」とて召せば、参りたり。

(中宮が)「右近が見知っている。呼べ。」と言ってお呼びになるので、(右近が)参上した。

枕草子

(天人)「壺なる御薬奉れ。きたなき所のものきこしめしたれば、御心地悪しからむものぞ。」

「壺にある御薬を召し上がれ。けがれた所の物を召し上がったので、ご気分が悪いでしょう。」

竹取物語

主な謙譲語

敬語基本
参る・まうづ参上する・参詣する(行く・来)。「参る」は「差し上げる」(与ふ)の意もある
まかる・まかづ退出する(出づ・去る)
申す・聞こゆ・聞こえさす・奏す・啓す申し上げる(言ふ)。「奏す」は天皇・上皇に、「啓す」は中宮・皇太子に
奉る・参らす・まゐらす差し上げる(与ふ)/補助動詞「お〜申し上げる」
たまはるいただく(受く)
承るお聞きする・お受けする(聞く・受く)
存ず存じ上げる・存じる(思ふ・知る)
候ふ・侍りお仕えする・おそばに控える(仕ふ・あり)
つかうまつる・つかまつるお仕えする・して差し上げる(仕ふ・す)
聞こゆ・聞こえさす・たてまつる(補助動詞)〜申し上げる・お〜する
たまふ(下二段・補助動詞)〜ております・〜させていただく(思ふ・見る・聞く・知るに付く)

動作を受ける人(目的語・相手)への敬意を表す。「誰に対して」の動作かを考えると、敬意の向きがわかる。「奉る」「参る」は尊敬語にもなり、「候ふ・侍り」は丁寧語にもなる(二つの働きをもつ敬語の項を参照)。

や、な起こしたてまつりそ。

いや、お起こし申し上げるな。(僧から児への敬意)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

中納言参りたまひて、

中納言が(中宮の御前に)参上しなさって、(参り=中宮への謙譲、たまひ=中納言への尊敬)

枕草子

竹の中より見つけきこえたりしかど、

(翁が)竹の中から(かぐや姫を)見つけ申し上げたけれども、

竹取物語

薬師仏の立ちたまへるを、見捨てたてまつる悲しくて、

薬師仏がお立ちになっているのを、(私が)見捨て申し上げるのが悲しくて、

更級日記

ちと承らばや。

(神官に)ちょっとお聞きしたい。

徒然草

憶良らは今はまからむ

憶良めは、もう退出いたしましょう。

万葉集

十年ばかり(御所に)さぶらひてききしに、

十年ほど(御所に)お仕え申し上げて聞いたが、

枕草子

丁寧語

敬語基本
本動詞「侍り・候ふ(さぶらふ・さうらふ)」あります・おります・ございます(あり・居り)
補助動詞「侍り・候ふ」〜です・〜ます・〜ございます

聞き手(会話文なら話し相手、地の文なら読者)への敬意を表す。丁寧語は会話文や手紙に多く、地の文ではあまり使われない。「侍り」「候ふ」は、貴人のそばに控えるという意味のときは謙譲語(お仕えする)。「あります」「〜ます」と訳せて、場所に高貴な人が出てこなければ丁寧語。

「もの申しさぶらはむ。」

「もしもし、申し上げましょう。」(もの申す=謙譲、さぶらふ=丁寧。僧から児へ)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

聞きはべりし。

聞きました。

徒然草

かの白く咲けるをなむ夕顔と申しはべる。

あの白く咲いているのを夕顔と申します。(随身から光源氏へ)

源氏物語「夕顔」

女、ただ一人侍りし、失せて、

娘が、ただ一人おりましたが、亡くなって、(僧都から光源氏へ)

源氏物語「若紫」

敬意の方向

敬語基本
地の文作者(語り手)からの敬意
会話文話し手からの敬意
尊敬語→動作をする人へ
謙譲語→動作を受ける人へ
丁寧語→聞き手・読み手へ

「誰から」は、地の文か会話文かで決まる。「誰へ」は、敬語の種類で決まる。動作を受ける人が複数いたり、動作主と受け手の両方を敬ったりするときは、下の二方面への敬語・最高敬語(二重敬語)の項を見る。

最後のいくさして見せたてまつらん。

(巴が義仲に)最後の合戦をしてお目にかけ申し上げよう。(会話文なので、話し手の巴から、動作を受ける義仲への謙譲)

平家物語「木曽の最期」

僧の、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを、

僧が、「もしもし、申し上げましょう。お目をお覚ましなさいませ。」と言うのを、(会話文なので、話し手の僧から児への敬意。さぶらは=丁寧、たまへ=尊敬)

宇治拾遺物語「児のそら寝」

敬語の補助動詞

敬語基本
尊敬の補助動詞(たまふ[四段]・おはす・おはします)〜なさる・お〜になる
謙譲の補助動詞(たてまつる・まゐらす・きこゆ・きこえさす・たまふ[下二段])〜申し上げる・お〜する
丁寧の補助動詞(侍り・候ふ)〜です・〜ます・〜ございます

接続連用形に付く

ほかの動詞(連用形)の下に付いて、その動作に敬意を添える。上に動詞があるかどうかで、本動詞か補助動詞かを見分ける。補助動詞の敬意の向きは、本動詞のときと同じ(尊敬は主語へ、謙譲は動作の受け手へ、丁寧は聞き手へ)。

かぐや姫いといたく泣きたまふ。

かぐや姫はひどく泣きなさる。

竹取物語

御かたちも院にいとよう似たてまつり給ひて、

お顔立ちも院にたいへんよく似申し上げなさって、

源氏物語「賢木」

かの白く咲けるをなむ夕顔と申しはべる。

あの白く咲いているのを夕顔と申します。

源氏物語「夕顔」

たまふ(四段と下二段)の見分け

敬語基本
四段活用「たまふ」(尊敬)お与えになる(本動詞)/〜なさる・お〜になる(補助動詞)。主語への敬意
下二段活用「たまふ」(謙譲)〜ております・〜させていただく(補助動詞のみ)。会話文・手紙で、話し手(書き手)自身の動作に付き、聞き手への敬意を表す

活用四段 たまは・たまひ・たまふ・たまふ・たまへ・たまへ / 下二段 たまへ・たまへ・たまふ・たまふる・たまふれ・たまへよ

活用形で見分ける:「たまふる」「たまふれ」の形は下二段だけ。「たまは」「たまひ」は四段だけ。「たまへ」は両方にあるので、文脈で決める。下二段は「思ふ・見る・聞く・知る」など限られた動詞にしか付かず、地の文には現れない。主語が話し手自身なら下二段(謙譲)、他人で身分の高い人なら四段(尊敬)。

かぐや姫いといたく泣きたまふ。

かぐや姫はひどく泣きなさる。(四段・尊敬)

竹取物語

さらば今宵は御宿直つかまつりて朝(馬を)見たまへむ。

「では今夜は御宿直をお勤め申し上げて、明朝(馬を)見させていただきましょう。」(下二段・謙譲)

今昔物語集「馬盗人」

申さむと思ひたまふるやうは、この川に浮きてはべる水鳥を射たまへ。

「申し上げようと存じておりますことは、この川に浮いております水鳥を射てください、ということです。」(思ひ+たまふる=下二段・謙譲。末尾の「射たまへ」は四段・尊敬)

大和物語

二つの働きをもつ敬語(まゐる・たてまつる・侍り・候ふ)

敬語基本
まゐる謙譲=参上する・差し上げる(行く・来・与ふ)/尊敬=召し上がる・なさる(食ふ・飲む・す)
たてまつる謙譲=差し上げる・〜申し上げる(与ふ)/尊敬=お召しになる・お乗りになる・召し上がる(着る・乗る・食ふ)
侍り・候ふ謙譲=お仕えする・おそばに控える/丁寧=あります・おります・ございます
たまふ四段=尊敬(なさる)/下二段=謙譲(〜させていただく)

同じ形でも、動作をする人と受ける人の身分で見分ける。主語が敬意を向けるべき高貴な人なら尊敬語、主語が目下で、受け手が高貴な人なら謙譲語。「食ふ・飲む・着る・乗る」の意味で使われていれば尊敬語になる。

(大君は)物もつゆばかりまゐらず。

(大君は)食べ物も少しも召し上がらない。(尊敬)

源氏物語「総角」

親王に馬の頭、大御酒まゐる。

親王に馬の頭が、お酒を差し上げる。(謙譲)

伊勢物語

(天皇が)御輿にたてまつりて後に、

(天皇が)御輿にお乗りになってから後に、(尊敬)

竹取物語

(かぐや姫は)壺の薬そへて、頭中将呼びよせて、(天皇に)奉らす。

(かぐや姫は)壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて、(天皇に)差し上げさせる。(謙譲)

竹取物語

最高敬語(二重敬語)

敬語基本
せたまふ・させたまふ・しめたまふ尊敬の助動詞「す・さす・しむ」+尊敬の補助動詞「たまふ」。「お〜になる」(天皇・皇后・中宮など最高位の人)
仰せらる・思しめさる など尊敬語+尊敬の助動詞「る・らる」。「おっしゃる」「お思いになる」

接続「す・さす・しむ」は未然形に付き、その連用形に「たまふ」が付く

尊敬語を二つ重ねて、最高位の人物への敬意を示す。訳は、ふつうの尊敬と同じ「お〜になる」でよい。「せ」「させ」には使役の用法もあるので、動作をさせられる相手が別にいて「〜に…させなさる」と訳せるときは、使役+尊敬になる。

「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、

「少納言よ、香炉峰の雪はどうでしょう。」と(中宮が)おっしゃるので、

枕草子

御簾を高くあげたれば、わらはせたまふ。

御簾を高く巻き上げたところ、(中宮は)お笑いになる。

枕草子

二方面への敬語(謙譲語+尊敬語)

敬語
謙譲語+尊敬語(奉りたまふ・参りたまふ・聞こえたまふ)一つの動作について、動作を受ける人(謙譲)と、動作をする人(尊敬)の両方を高める

謙譲語が先、尊敬語があとの順に並ぶ。地の文なら、作者が二人の人物に同時に敬意を払っている。謙譲語は受け手へ、尊敬語は主語へ、と分けて考える。

(かぐや姫は)いみじく静かに、公(おほやけ)に御文奉りたまふ。

(かぐや姫は)たいそう静かに、帝に、お手紙を差し上げなさる。(奉り=受け手の帝へ、たまふ=かぐや姫へ)

竹取物語

中納言参りたまひて、

中納言が(中宮の御前に)参上しなさって、(参り=中宮へ、たまひ=中納言へ)

枕草子

絶対敬語・自尊敬語

敬語
絶対敬語(奏す・啓す)「奏す」は天皇・上皇に、「啓す」は中宮・皇太子に申し上げる。受け手が決まっている
自尊敬語天皇などの最高位の人が、自分自身の動作に尊敬語を使う。訳すときは敬語をはずしてよい

「奏す」を見たら受け手は天皇(上皇)、「啓す」なら中宮・皇太子と読める。自尊敬語は、帝が会話文で自分の動作に「聞こしめす」などを使う形で、自分を高めているわけではなく、地位の高さを表す言い方。

(ある貴族)「よきに奏したまへ、啓したまへ。」

「天皇によろしく申し上げてください、中宮によろしく申し上げてください。」

枕草子

顔かたちよしと聞こしめして、御使ひを賜びしかど、

容貌がすぐれていると聞いて、使いをつかわしたが、(帝が自分の動作を述べる自尊敬語)

竹取物語

敬意を表す接頭語(御)

敬語
御(おほん・おん・み・ご)名詞の上に付いて、その持ち主・行為者への敬意を表す(お〜・ご〜)

「御薬」「御心地」「御衣」「御文」のように、「御」が付いた名詞は、その持ち主や行為者が高貴な人であることを示す。誰の物かを考えると、敬意の向きがわかる。

壺なる御薬奉れ。きたなき所のものきこしめしたれば、御心地悪しからむものぞ。

壺にある御薬を召し上がれ。けがれた所の物を召し上がったので、御気分が悪いでしょう。(御薬・御心地とも、かぐや姫の物)

竹取物語

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呼応の副詞

副詞の中には、下に決まった言い方を要求する「呼応の副詞」があります。副詞を見たら、下にどんな語が来るかを予測して読みます。状態・程度の副詞との違いと、感動詞もあわせてまとめました。

副詞の種類(状態・程度・陳述)

副詞基本
状態の副詞動作や状態のありさまを表す(ほのぼのと・うらうらと・やがて・ふと)
程度の副詞状態の程度を表す(いと・いたく・やや・すこし・やうやう)
陳述(呼応)の副詞下に決まった言い方を要求する(え〜ず、な〜そ、いかで〜む など)

副詞は活用せず、主に用言を修飾する。陳述の副詞は、下の語を決めてしまうので、見つけたら文末の形を予測しながら読む。

夜のほのぼのと明くるに、泣く泣く帰りにけり。

夜がほのぼのと明けるころに、涙を流しながら帰っていった。

伊勢物語

その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。

その沢にかきつばたが、とても美しく咲いている。

伊勢物語

え答へずなり侍りつ。

答えることができなくなりました。

徒然草

え〜ず

副詞基本
不可能〜できない(下に打消の語が来る)

「え」の下には、打消の「ず・じ・まじ・で」や「なし」が来る。「えこそ〜ね」のように、係助詞をはさんで已然形「ね」で結ぶこともある。「え」だけでは「できる」の意味にならない点に注意。

おぼろけの紙はえ張るまじければ、

ありふれた紙では張ることができそうにないので、

枕草子「中納言参りたまひて」

え答へずなり侍りつ。

答えることができなくなりました。

徒然草

さのみも、えとどめさせ給はず。

そうそうは、お引き止めになることがおできにならない。

源氏物語「桐壺」

いかに仰せらるるやらん、えこそ聞き知らね。

どうおっしゃっているのやら、聞いてわかることができない。

徒然草

な〜そ

副詞基本
禁止〜するな・どうか〜しないでください(穏やかな禁止)

副詞「な」+動詞の連用形(カ変・サ変は未然形)+終助詞「そ」の形で、間にはさまれた動詞が禁止の内容。「な来そ」「なせそ」のようになる。動詞の終止形に付く終助詞「な」(禁止)とは別なので、識別ページの「な」を参照。

や、な起こしたてまつりそ。

いや、お起こし申し上げるな。

宇治拾遺物語「児のそら寝」

月な見給ひそ。

月を見なさるな。

竹取物語

東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ

東風が吹いたら香りを送ってくれ、梅の花よ。主人がいないからといって、春を忘れないでおくれ。

大鏡

さらに・つゆ・おほかた・絶えて・をさをさ〜ず

副詞基本
全否定(さらに・つゆ・おほかた・絶えて・つやつや〜ず)まったく〜ない・少しも〜ない・いっこうに〜ない
をさをさ〜ずほとんど〜ない・めったに〜ない

下に打消の語(ず・じ・まじ・なし)が来る。「をさをさ」は「ほとんど〜ない」で、全部を否定するわけではない。「つゆ」は「露」から転じて「少しも」。

まかでなむとしたまふを、暇さらに許させたまはず。

退出しようとなさるのを、(帝は)お暇をまったくお許しにならない。

源氏物語「桐壺」

しばしかなでて後、抜かんとするに、おほかた抜かれず。

しばらく舞ったあとで、(頭を)抜こうとすると、いっこうに抜けない。

徒然草

知らぬ人の中にうち伏して、つゆまどろまれず。

知らない人の中に寝て、少しも眠ることができない。

更級日記

学問をも遊びをも、もろともにして、をさをさ立ちおくれず。

学問も遊びも一緒にして、ほとんど遅れをとらない。

源氏物語「帚木」

よも〜じ

副詞基本
打消推量まさか〜ないだろう

下に打消推量の「じ」「まじ」が来る。「まさか〜ないだろう」と訳す。

かの国の人来なば、猛き心つかふ人も、よもあらじ。

あの国(月)の人が来たならば、勇ましい心をふるう人も、まさかいないだろう。

竹取物語

いまだ〜ず

副詞
未完了まだ〜ない

下に打消の「ず」が来る。「すでに〜ぬ(もう〜した)」と対にして覚える。

古京はすでに荒れて、新都はいまだ成らず。

旧都はもう荒れ果てて、新しい都はまだできあがっていない。

方丈記

ゆめ・ゆめゆめ〜な

副詞基本
禁止決して〜するな(下に禁止の「な」「なかれ」などが来る)

「ゆめ」は「ゆめゆめ」とも言う。下に禁止の終助詞「な」(文末)や「そ」を伴う。「ゆめ〜ず」「ゆめ〜まじ」の形で「決して〜ない」と訳すこともある。

ここは、けしきある所なめり。ゆめ寝ぬな。

ここは怪しい気配のある所のようだ。決して寝るな。

更級日記

たとひ・よし〜とも

副詞基本
逆接仮定たとえ〜ても

下に逆接仮定の「とも」が来る。「たとひ〜とも」で「たとえ〜ても」。「よし」「よしや」も、下に「とも」を伴うと同じ意味になる。

たとひ耳鼻こそ切れ失すとも、

たとえ耳や鼻が切れてなくなっても、

徒然草

たとひ広く作れりとも、誰を宿し、誰をか据ゑむ。

たとえ広く作ったとしても、誰を泊め、誰を住まわせようというのか。

方丈記

もし〜ば

副詞
順接仮定もし〜なら(下に「ば」)
反実仮想(〜せば〜まし)もし〜だったら、〜だろうに(事実と反対のことを仮定する)

「もし」は順接の仮定条件をつくる「未然形+ば」と呼応する。事実と反対の仮定は「せば〜まし」「ましかば〜まし」の形で、下は「まし」で結ぶ。

もし心にかなはぬことあらば、やすくほかへ移さんがためなり。

もし気に入らないことがあれば、たやすくほかへ移そうとするためである。

方丈記

世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

この世にもし桜がまったくなかったならば、春の心はのどかだっただろうに。

古今集

さだめて・かならず・おそらく〜む(べし)

副詞基本
推量きっと〜だろう(下に推量の「む・らむ・べし・めり」など)

「さだめて・かならず・おそらく・けだし」などは、下に推量や意志の語を伴う。「必ず」は「必ず〜する」と意志にもなる。

この児、さだめておどろかさむずらむと、待ちゐたるに、

この児は、きっと起こしてくれるだろうと、待っていると、

宇治拾遺物語「児のそら寝」

「さだめて習ひあることには侍らむ。」

「きっといわれのあることでございましょう。」

徒然草

いかで〜む・ばや

副詞基本
願望・意志なんとかして〜したい・〜しよう(下に「ばや」「む」「たし」など)
疑問・反語どうして〜か・どうして〜か、いや〜ない(下に推量の語や連体形)

下が願望・意志の語(ばや・む・たし)なら「なんとかして」。下が推量の語(らむ・むず・べき)で疑問の言い方になっていれば「どうして・どのようにして〜か」。「いかでか」の「か」は、疑問・反語を強める係助詞。

世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、

世の中に物語というものがあるそうだが、なんとかして見たいと思い続けて、

更級日記

いかでなほ少しひがごと見つけてをやまむ。

なんとかしてやはり少しでも間違いを見つけて、(それで)やめにしよう。

枕草子

ただ今おのれ見捨て奉らば、いかで世におはせむとすらむ。

今すぐ私が見捨て申し上げたなら、(この子は)どうしてこの世に生きていこうとなさるのだろう。

源氏物語「若紫」

など・なぞ・いかに・いかが〜(連体形)

副詞
疑問どうして〜か・なぜ〜か(など・なぞ・などか)
反語どうして〜か、いや〜ない(なにしに・なにせむに・いかが)
状態の疑問(いかに・いかが)どのように・どうして

文末の語は、推量の「む・けむ」や連体形で結ぶ。疑問か反語かは、文脈で判断する。疑問は答えを求める言い方、反語は「〜ない」と強く否定する言い方。

あな、うらやまし。などか習はざりけん。

ああ、うらやましい。どうして習わなかったのだろうか。

徒然草

なにせむにか命も惜しからむ。

どうして命が惜しいことがあろうか。

竹取物語

いはむや、竜の頸の玉は、いかが取らむ。

まして、竜の頸の玉は、どうして取れようか。

竹取物語

すべからく〜べし

副詞
当然当然〜すべきだ・ぜひ〜しなければならない

下に当然・義務の「べし」が来る。

すべからく、まづその心づかひを修業すべし。

当然、まずその心がけを身につけるべきだ。

徒然草

あたかも〜ごとし

副詞
比況まるで〜のようだ

下に比況の「ごとし」が来る。

あたかも四条五条の橋のごとし。

まるで四条・五条の橋のようだ。

太平記

いはむや〜をや

副詞
抑揚まして〜はなおさらだ・まして〜はどうして〜か

軽い事柄を先に述べ、それよりも重い事柄を「まして〜」と続ける。文末に「をや」が付く形も多い。

この玉、たはやすくえ取らじを。いはむや、竜の頸の玉は、いかが取らむ。

この玉でさえ簡単には取れないだろうに。まして、竜の頸の玉はどうして取れようか。

竹取物語

あな+形容詞の語幹

感動詞基本
詠嘆ああ、〜だなあ

「あな」の下に形容詞・形容動詞の語幹が来る。「あな、わびし」「あな、うれし」。感動詞なので文頭に置かれ、「ああ」と訳す。

あな、わびしと思ひて、

ああ、つらいと思って、

宇治拾遺物語「児のそら寝」

あな、うらやまし。

ああ、うらやましい。

徒然草

感動詞(あな・いで・いざ・えい など)

感動詞
感動ああ(あな・あはれ)
呼びかけ・促しさあ・どれ(いで・いざ・いでや)
応答はい(えい)

感動詞は活用せず、単独で文頭に立つ。「あな」は下に形容詞・形容動詞の語幹を伴うことが多い。

「いで、君も書い給へ。」

「さあ、あなたもお書きなさい。」

源氏物語「若紫」

僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、

僧たちが、宵のつれづれに、「さあ、ぼたもちを作ろう。」と言ったのを、

宇治拾遺物語「児のそら寝」

ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、

どうしようもなくて、ずいぶん経ったのちに、「はい。」と返事をしたところ、

宇治拾遺物語「児のそら寝」

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まぎらわしい語の識別

同じ形で意味の違う語の見分け方です。基本の手順は三つ。①直前の語の品詞と活用形(接続)を見る、②その語自身の活用形や、下に続く語を見る、③訳して意味が通るか確かめる。入試でよく問われる「なり・ぬ・ね・に・なむ・る・し・らむ・けれ・な・ば・が・の・と・を」を中心にまとめました。

→ なり・ぬ・ね・に・なむ・る・れ・し・らむ・けれ・な・ば・ばや・が・の・と・を・にて・して・せ・しか・たり・ての見分け方(別ページ)