『鼓腹撃壌』書き下し文・現代語訳・意味|テスト予想問題付き

目次
  1. 『鼓腹撃壌』本文解説
  2. 「無為の治」
  3. 故事成語「鼓腹撃壌」の意味
  4. 『鼓腹撃壌』予想問題

『鼓腹撃壌』の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。

『鼓腹撃壌』本文解説

帝尭陶唐氏、帝嚳子也。

帝(てい)尭(げう) 陶唐(たうたう)氏(し)は、帝(てい)嚳(こく)の子(こ)なり。

帝尭陶唐氏は、帝嚳の子である。

○「尭」は伝説上の理想的な天子。「尭」と「舜(しゅん)」の二人が有名。

其仁如天、其知如神。就之如日、望之如雲。

其(そ)の仁(じん)は天(てん)のごとく、其(そ)の知(ち)は神(かみ)のごとし。之(これ)に就(つ)けば日(ひ)のごとく、之(これ)を望(のぞ)めば雲(くも)のごとし。

その人徳は天のようで、その知は神のようであった。尭に近づいて見ると太陽のようで、尭を遠くから望み見ると雲のようであった。

・如…「ごとシ」~のようだ。

・望…遠くから見る。

・「之」はどちらも「尭」を指す。

○尭の仁徳は天のように広大で、知恵は万物を知る神のようであった。また、近くでは太陽のようなあたたかさを感じ、遠くからは恵みの雨をもたらす雲のように見えた。尭の理想的な人柄を表している。

都平陽。茆茨不翦、土階三等。

平(へい)陽(やう)に都(みやこ)す。茆(ばう)茨(し)は翦(き)らず、土(ど)階(かい)三(さん)等(とう)のみ。

平陽に都を置いた。茅葺きの屋根の軒端は切りそろえず、宮殿に上る階段は、土で築かれた三段だけであった。

○「茆茨不翦、土階三等」は、尭が民衆に余計な負担をかけず、質素・倹約を大切にしていたことを表す。

治天下五十年、不知天下治歟、不治歟、億兆願戴己歟、不願戴己歟。

天(てん)下(か)を治(をさ)むること五(ご)十(じふ)年(ねん)、天(てん)下(か) 治(をさ)まるか、治(をさ)まらざるか、億(おく)兆(てう) 己(おのれ)を戴(いただ)くを願(ねが)ふか、己(おのれ)を戴(いただ)くを願(ねが)はざるかを知(し)らず。

天下を治めること五十年に及んだが、天下が治まっているか、治まっていないのか、人々が自分を天子として戴くことを願っているか、願っていないのかわからなかった。

・億兆…民衆、人民。

・~歟…「~か」。疑問を表す。

なぜ尭自身にも政治の効果がわからなかったのか。

理想的な政治があまりにも自然に行われていたため、政治の効力を実感することがなかったから。

これが、この文章で重要な「無為の治」につながる。

問左右、不知。問外朝、不知。問在野、不知。

左(さ)右(いう)に問(と)ふに、知(し)らず。外(ぐわい)朝(てふ)に問(と)ふに、知(し)らず。在(ざい)野(や)に問(と)ふに、知(し)らず。

側近の者に尋ねたが、わからない。政務を執る役所の役人に尋ねたが、わからない。民間の人々に尋ねたが、わからない。

・左右…側近、近侍の臣。

・在野…官に仕えていない民間の人。

乃微服游於康衢。聞童謡、曰、

乃(すなは)ち微(び)服(ふく)して康(かう)衢(く)に游(あそ)ぶ。童(どう)謡(えう)を聞(き)くに、曰(い)はく、

そこで粗末な服装をして、にぎやかな大通りに出かけた。わらべうたを聞くと、それが言うことには、

・乃…「すなはチ」そこで。

・游…「あそブ」出歩く、行く。

○「微服」したのは、天子であることを人々に知られないようにして、民衆のありのままの様子を知るため。

立我烝民 莫匪爾極

「我(わ)が烝(じよう)民(みん)を立(た)つるは 爾(なんぢ)の極(きよく)に匪(あら)ざる莫(な)し

我々多くの民衆の生活を成り立たせているのは、あなたさまの徳のおかげでないものはない。

・爾…「なんぢ」あなた、おまえ。

莫匪~…「~にあらざるなし」

「莫」と「匪」という否定語を重ねた二重否定。

「~でないものはない」→「すべて~である」という強い肯定になる。

ここでは「民衆の生活は、すべて尭の徳のおかげで成り立っている」という意味。

不識不知 順帝之則

識(し)らず知(し)らず 帝(てい)の則(のり)に順(したが)ふ」と。

知らず知らずのうちに、帝の手本に従っている。」と。

・則…規範、手本。ここでは尭が立てた規範。

○童謡では、尭の政治を素直にほめている。「自分たちの生活が成り立つのは尭の徳のおかげだ」と民衆が感謝している。

有老人、含哺鼓腹、撃壌而歌曰、

老(らう)人(じん)有(あ)り、哺(ほ)を含(ふく)み腹(はら)を鼓(こ)し、壌(じやう)を撃(う)ちて歌(うた)ひて曰(い)はく、

老人がおり、食物をほおばり、腹つづみを打ち、足で地面を踏み鳴らして拍子をとりながら歌って言うことには、

・含哺…食べ物を口いっぱいにほおばること。食べ物が十分にあることを示す。

・鼓腹…満腹になり、腹をたたくこと。

・撃壌…地面を踏み鳴らして拍子をとること。

日出而作 日入而息

「日(ひ)出(い)でて作(な)し 日(ひ)入(い)りて息(いこ)ふ

日が昇ったら仕事を始め、日が沈んだら休む。

鑿井而飲 耕田而食

井(せい)を鑿(うが)ちて飲(の)み 田(でん)を耕(たがや)して食(く)らふ

井戸を掘って水を飲み、畑を耕して飯を食べる。

○老人は、自然の運行に従って働き、自分で井戸を掘り、畑を耕して暮らしている。自然に従った自給自足の生活である。

帝力何有於我哉

帝(てい)力(りよく) 何(なん)ぞ我(われ)に有(あ)らんや」と。

帝の力がどうしてわしに及んでいようか、いや、及んではいない。」と。

何~哉…「なんゾ~ンや」 反語

「どうして~だろうか、いや~ない。」

「帝力何有於我哉」は尭の政治を批判しているわけではない。

老人は「自分は帝の力など借りずに暮らしている」と歌っている。しかし、為政者の存在を意識しなくても平穏に暮らせるほど政治がうまくいっていることを、逆説的に表している。

つまり、老人の歌そのものが尭の「無為の治」を証明している。

「無為の治」

『鼓腹撃壌』で描かれている理想の政治は、為政者の存在を民衆が意識しないほど、自然に世の中が治まっている政治です。

尭があれこれ命令し、民衆が「帝のおかげだ」と常に意識しなくても、政治や徳が自然に社会へ行き渡り、人々が平和に暮らしている。

故事成語「鼓腹撃壌」の意味

「鼓腹」は、満腹になって腹をたたくこと。「撃壌」は、地面を踏み鳴らして拍子をとることです。

鼓腹撃壌(こふくげきじょう)

平和で安楽な生活を喜び楽しむこと。

『鼓腹撃壌』予想問題

問1 「茆茨不翦、土階三等」は、尭のどのような態度を表しているか。
答 民衆に余計な負担をかけず、質素・倹約を大切にする態度。
問2 尭は天下を治めて五十年たっても、自分の政治の効果がわからなかった。なぜか。
答 理想的な政治があまりにも自然に行われていたため、政治の効力を実感することがなかったから。
問3 尭が「微服」したのはなぜか。
答 天子であることを人々に知られず、民衆のありのままの様子を知るため。
問4 「莫匪爾極」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
答 【書き下し文】爾の極に匪ざる莫し。
【現代語訳】あなたさまの徳のおかげでないものはない。
問5 童謡には、民衆のどのような考えが表れているか。
答 自分たちが平和に生活できるのは尭の徳のおかげであると、尭の政治を肯定し感謝する考え。
問6 「日出而作 日入而息 鑿井而飲 耕田而食」は、老人のどのような生活を表しているか。
答 自然の運行に従って働く、自給自足の生活。
問7 「帝力何有於我哉」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
答 【書き下し文】帝力何ぞ我に有らんや。
【現代語訳】帝の力がどうして私に及んでいようか、いや、及んでいない。
問8 老人は「帝の力は自分には関係ない」と歌っている。この歌が、かえって尭の理想的な政治を表すのはなぜか。
答 為政者の存在を意識しなくても、民衆が平和で満ち足りた生活を送れるほど、尭の政治が自然に行き届いていることを示すから。
問9 故事成語「鼓腹撃壌」は、現在どのような意味で使われるか。
答 平和で安楽な生活を喜び楽しむこと。